黒田バズーカ第2弾・政策決定会合でも賛否割れた日銀追加金融緩和
経済・ビジネス- English
- 日本語
- 简体字
- 繁體字
- Français
- Español
- العربية
- Русский
アベノミクスによる景気回復が正念場を迎えている中で、日本銀行が電撃的な追加金融緩和策を決めた。2014年4月の消費税率引き上げ後、景気は足踏み状態。このままでは安倍政権が目指す「デフレ脱却」の実現も危ぶまれる。そんなタイミングで発表された追加金融緩和策に、市場は急激な円安・株高の反応を見せた。これが、安倍晋三首相が12月上旬に最終判断を下す消費税再引き上げの是非判断にどう影響するか――。
日経平均株価は7年ぶりの高値に
金融資本市場は先週来、久々に活況を呈している。東京株式市場は11月5日時点で、株価が5営業日連続で上昇し、この間一時、およそ7年ぶりに1万7000円台を回復した。外国為替市場でも円安が進み、円相場は一時1ドル=114円台と約6年10カ月ぶりの円安水準となった。年末に向けて一段の円安・株高を予想する市場関係者がなお多い。
円安・株高の進行は、日銀が10月31日に意表を突く形で発表した追加金融緩和のサプライズ効果が続いているためだ。発表内容は、▽足元の物価上昇が鈍化していることを受けて、資金供給量(マネタリーベース)を年10兆~20兆円増やし、年80兆円に拡大する、▽長期国債の買い入れ量も30兆円増やし、年80兆円にする、▽上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(REIT)の購入量を3倍に増やす――というものだった。
日銀の追加緩和発表は、米国で連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策方針を決める連邦公開市場委員会(FOMC)が量的緩和の終了を決めたタイミングとほぼ軌を一にしている。海外投機筋を中心に投資家らが一斉に動いた。加えて、国内では年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国債の運用を減らし海外資産や日本株の購入を増やす改革を発表したタイミングとも重なった。
これが円安・株高を加速させるもう一つの要因になった。それぞれ独立した動きとはいえ、これらのタイミングの奇妙な一致に市場では憶測の声も聞かれた。
「2年で2%の物価上昇」が日銀の至上命題
2012年12月に発足した第2次安倍内閣の下で任命された黒田東彦日銀総裁は、就任からほぼ1カ月後の2013年4月、耳慣れない「異次元緩和」を実施。大胆な量的質的緩和が市場に衝撃をもたらし、“バズーカ砲”の異名をとった。今回の追加緩和発表も、前回に匹敵する円安・株高のサプライズ効果を市場に与え、“黒田バズーカ第2弾”と受け止められた。
黒田総裁は一連の追加緩和策について「経済はデフレ脱却に向けてまさに正念場。物価目標を実現するため、できることは何でもやる」と繰り返し強調している。物価目標とは、黒田総裁の就任当初、公約した「消費者物価上昇率を向こう2年間で2%とする」というものだ。安倍内閣の最重要テーマである「デフレ脱却」実現のため、この目標達成は黒田日銀の使命であり、黒田総裁の真価が問われる最重要課題といえる。
「賛成5、反対4」の僅差で採決
ただ、今回の追加金融緩和決定は薄氷の採決だったことも見逃せない。日銀の金融政策は政策委員9人(総裁、副総裁2人、審議委員6人)による金融政策決定会合で決められるが、今回の決定は「賛成5、反対4」という僅差での可決である。日銀執行部の正副総裁3人が賛成し、残る民間の審議委員6人のうち2人が賛成したため、1票差で反対論を封じる結果となった。
賛成多数とはいえ、こうした僅差での金融政策決定は異例なことだ。追加緩和の効果について金融政策決定会合の場でも意見が大きく分かれたことを物語っている。反対の立場を表明した審議委員の中には、追加緩和による副作用を懸念する声が少なくなかったとみられる。
アベノミクスが描く経済再生のシナリオは、第1の矢(大胆な金融政策)、第2の矢(機動的な財政出動)、第3の矢(成長戦略)を総動員して、企業収益の改善 → 賃金上昇・雇用拡大 → 家計消費の増加 → 景気上昇、といった経済の好循環を定着させようというものだ。しかし、大胆な金融緩和で株高・円安が進行し、景況感や市場の先行き期待感は高まるが、副作用への懸念や実体経済への波及効果がどの程度出てくるかについては、民間エコノミストらの間でも見方が分かれる。
消費税論議との関連を日銀は否定
今回の日銀の追加緩和決定に対し、政府・与党内からは「日本経済を後押しする力を発揮してくれるものだ」(麻生太郎財務相)などと歓迎する声が聞かれた。日銀はこの追加緩和決定が、消費税を2015年10月から法律通り現行8%から10%へ再引き上げするかどうかを判断するための環境づくり、との見方を否定している。
消費税をめぐる有識者らの議論が再び白熱する中で、安倍首相は消費税再引き上げの是非判断を12月上旬には下す。その際、経済指標として首相が最後の判断材料とするのは、7-9月期のGDP(国内総生産)統計であるのは間違いない。11月17日発表の一次速報値、12月8日発表の二次速報値に注目が集まる。
カバー写真=10月31日、日銀政策決定会合で追加大幅金融緩和策を決めた後、記者会見に臨む黒田東彦・日銀総裁(提供・新華社/アフロ)