イプシロン成功、衛星ビジネスへ確かな一歩

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新型国産ロケット「イプシロン」の初打ち上げが成功した。2013年9月14日午後2時、鹿児島県肝付(きもつき)町の内之浦(うちのうら)宇宙空間観測所から発射され、惑星観測衛星「スプリントA」を南米上空の予定軌道で分離した。2020年東京オリンピック・パラリンピック招致決定ほどではないが、日本の商業衛星ビジネスへの本格参入に向けた確かな一歩、との期待が膨らんでいる。

打ち上げに成功したイプシロン。(C)JAXA

宇宙航空研究開発機構(JAXA)が12年ぶりに開発した固体燃料の小型ロケットイプシロンは、全長24.4メートル、打ち上げ能力1.2トン。既存のロケット技術を活用し、開発費を抑えた。従来の液体燃料によるH2A(全長53メートル、打ち上げ能力10トン)、H2B(全長56.6m、打ち上げ能力16.5トン)に比べると小ぶりだ。

イプシロンロケットは人工知能を搭載し、安価で簡便な衛星打ち上げを可能にする、というのがセールスポイント。日本の衛星打ち上げビジネスは苦戦が続いており、欧州やロシアなどに大きく後れを取っている。今後、商業衛星の打ち上げ獲得を目指す国際市場で受注拡大が図れるかどうか注目される。

前回の自動停止は0.07秒のズレが原因

イプシロンの搭載カメラの映像。(c)JAXA

イプシロンロケット打ち上げでは、直前まで小さなトラブルや延期が続いた。

当初の打ち上げ予定日だった8月27日には、午後1時45分の打ち上げ予定時刻のカウントダウンが始まっていた発射19秒前に、打ち上げが自動停止した。JAXAによると、地上側コンピューターよる監視が、搭載コンピューターの姿勢計算開始より約0.07秒早かったため、ロケットの姿勢は正常だったにもかかわらず、地上側コンピューターが「姿勢異常」と誤判定し、自動停止した。

イプシロン発射では、発射20秒前に地上側コンピューターが指令を送り、ロケットに搭載したコンピューターを起動させる。ロケットのコンピューターは傾きなどを検知するセンサーのデータから計算して結果を地上へ送信。地上側コンピューターが適切な姿勢かどうかを判定する仕組み。地上側コンピューターは指令を出した1秒後に、ロケットからデータを受け取る設定になっていたが、実際にはロケットのコンピューターに指令が届くまでに0.07秒余計にかかり、地上側コンピューターはデータが届く前に判定を始めてしまったという。

理解と寛容さを見せた宇宙ファン

JAXAの開発責任者、森田泰弘教授は当時、「8月20、21日に実施したリハーサル終了後、取得データの評価により監視設定値の妥当性を確認したが、約0.07秒の微小なズレにまで思いが至らなかった」と認めた。これに対し、ネット上にはさまざまな書き込みがあった。「0.07秒を微少と捉えていたとすれば、あまりにも認識がお粗末。0.07秒の間に地球の自転で打ち上げ場所は東に30メートル近く動いている」と手厳しい声もあった。

しかし、打ち上げを見守った大方の宇宙ファンは理解と寛容さを見せた。例えば、「私たち日本人は、『一度の失敗も許されない』という態度を改め、寛容になっていく必要がある」「中止は『失敗』ではない。機体も衛星も無事であり、不具合直してまたやり直せばいい」「構想発表時『できっこない』と世界中から失笑された、夢のようなプロジェクト。実現するまで応援します」――といった具合だ。

イプシロン打ち上げ成功を受けて、周辺国からは「軽量で費用のかからないイプシロンは量産体制に適したモデルであるという点で、軍事戦略的にも意味がある」といった受け止め方もあるが、日本はあくまで平和利用が目的だ。衛星打ち上げビジネスで、まだフロントランナーにはほど遠いが、小型衛星を機敏に打ち上げる能力が国産ロケットに加わったことの意味は大きい。

JAXAには輝かしい実績もある。小惑星探査機「はやぶさ」が2010年6月に地球に帰還し、小惑星「イトカワ」から微粒子を持ち帰り、世界から喝采(かっさい)を受けたのはまだ記憶に新しい。宇宙開発予算では米航空宇宙局(NASA)の10分の1程度とされるが、イプシロン打ち上げ成功により日本の宇宙開発推進にさらに弾みがつきそうだ。

(2013年9月17 日 編集部記)

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