銭湯で日常の「旅」を楽しむ

銭湯入門-知ってるようで知らない入浴作法

暮らし

初めてだと入るのに少し勇気のいる銭湯。その利用方法をあらためて教えてもらった。指南役は、漫談家の風呂わく三さん。今回紹介するタカラ湯をはじめ、銭湯を子どもの頃から利用しているベテランだ。

手ぶらで行っても大丈夫

訪れたのは、「これぞ銭湯!」といった佇(たたず)まいの東京都足立区にあるタカラ湯。その昭和ティストに圧倒され、暖簾(のれん)をくぐるのをためらってしまいそうだが、銭湯の入浴作法が分かっていれば大丈夫。着替えのほかにタオル、シャンプーやリンス、石けんなどの入浴アイテムを用意すれば完璧だが、手ぶらで行ってもOK。気が向いたら、ふらりと立ち寄ってみよう。

暖簾をくぐれば、レトロで懐かしい昭和的な雰囲気が

濡れたタオルや手拭い、石けんなどを入れる袋があると便利

下足を脱いで入浴料を払い、脱衣所へ

暖簾をくぐると銭湯の玄関で、下足箱が並んでいる。木の札の鍵が付いているのが、未使用の下足箱だ。靴を下足箱にしまい、札鍵を引き抜くと鍵がかかる。タカラ湯では札鍵を帰りまで自分で管理するが、フロントに預けるシステムの銭湯もあるので覚えておこう。

ブーツなど大きな靴は、下足箱に入らないこともあるので要注意

フロントで支払う入浴料は、東京都内一律の460円(入浴料の設定は都道府県によって異なる)。必要に応じて入浴セットを購入し、男湯・女湯に分かれて暖簾の奥にある脱衣所へと進む。昔ながらの番台スタイルの銭湯も基本は一緒。入り口からすでに男女に分かれているところが多い。

フロントではひげそりや歯ブラシ、タオルの販売も

脱衣所で裸になって、いざ浴室へ

脱衣所ではまず服や下着を脱いで、荷物や下足番の鍵と一緒にロッカーに入れる。ロッカーの鍵は手首に装着し、タオルで隠すべきところを隠しながらシャンプーなどの入浴道具を持って浴室へ。浴室は湿気が強いので、入り口の戸はきっちり閉めること。

鍵付きとはいえ、ロッカーに貴重品は持ち込まない。

体を洗ってから湯船に

入り口の脇に並べられた湯おけとイスを持って、空いているカラン(蛇口)の前へ。銭湯では湯船に浸かる前に、必ず体を洗おう。シャワーヘッドが動くタイプなら、体を流すときに周りの人に湯がはねないよう、角度を調整しよう。カランの湯が熱い場合は水で薄めて使用する。

入浴前に体をよく洗おう。移動する時は入浴セットも邪魔にならない場所によける

広い湯船でゆったり

湯桶とイスを片付けてから湯船へ。タオルを湯船に入れないのも銭湯のマナーだ。頭の上にタオルを置くのが一般的なスタイル。湯桶にタオルや道具をまとめ、入浴の邪魔にならない場所に置いておくのも忘れずに。湯船の湯温が熱い場合は、周りの人に配慮しながら水を足してもOKだが、ぬるくし過ぎないように注意しよう。湯船が広くても、泳いだりするのは当然NG。

開放的な入浴タイム。混雑時は譲り合いの精神をお忘れなく

タオルは湯船に入れてはいけない。頭に載せて入るのがエチケット

湯上り後は水分補給を

脱衣所へ戻るときは浴室内でタオルを絞り、体をよく拭く。濡れた体で脱衣所を汚すのは、重大なマナー違反だ。扇風機などで火照った体を冷やし、吹き出す汗をタオルで拭く。汗が引いたら、着替える。風呂上がりにはフロントで牛乳などを購入して、水分補給をするのも醍醐味(だいごみ)の一つ。「タカラ湯なら、やはり湯上りにゆったりと庭を眺めることができる縁側が最高です」とわく三さん。縁側での涼みながらの一杯は、まさに格別だ。

男湯の縁側には、ゆったりとした時間が流れていた

牛乳の他、コーヒー牛乳やフルーツ牛乳など、瓶入りの飲み物が銭湯の定番だ

銭湯は出会いの場

銭湯の魅力はまだ他にもある。「体を洗ってサッパリする以外に、いろんな人に出会えることも魅力です」とわく三さん。年輩の人たちが友達同士で気兼ねなく雑談している姿を見るのが好きだという。文字通り裸付き合いができるので、まるで子どもの頃に戻ってしまうような不思議な場の力があるのかもしれない。

また、わく三さんは今でも後輩を連れてよく銭湯に行くそうだ。「一人でも、仲間とでも、どういう形でも楽しめる遊び場」というのが、わく三さんにとっての銭湯。銭湯仲間を作って、一緒に入るのも良し。休日に気になる銭湯を求めて、街歩きの途中に立ち寄るのも良し。海外からの旅行者も、わく三さんのように上手に銭湯を利用して、昔ながらの日本の庶民文化を存分に味わってもらいたいものだ。

銭湯でも漫談をするというわく三さん(左)。銭湯内に座席を設けたスタイルの寄席イベント(右の写真は高円寺の小杉湯)。音楽ライブのイベントなど、新しいスタイルでの銭湯の活用例が広がっている

取材・文=和賀 尚文(plant Q)
写真撮影=加藤 熊三
モデル・写真提供=風呂 わく三
取材協力=あだち銭湯文化普及会

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