梅の魅力③ 梅酒をプラムワインから“umeshu”へ
Guideto Japan
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女性を中心に海外で人気の梅酒
梅干しは海外普及に苦戦しているが、同じ梅を材料にした梅酒の輸出は順調だ。国税庁の酒類輸出統計によると、梅酒が含まれるリキュール類の輸出額は2011年の18億4000万円から、16年には42億1000万円と2倍以上に増えた。17年も1〜6月で計22億円と前年比9.6%増で、その好調に梅酒が大きく貢献している。同庁の調査によると、特に香港では女性に人気が高く、和食のお供として「日本酒よりも甘くて飲みやすい」と好む人が多いようだ。
梅酒杜氏(とうじ)の肩書を持つ山本佳昭(よしあき)さんは、「梅酒は、梅の香りと味のついたクエン酸が楽しめるお酒なのです」と説明する。山本さんは、海外22カ国に梅酒を出荷する酒造メーカー、 中野BC株式会社の製造部長。日本最大級の梅酒コンテスト「天満天神梅酒大会」で初代グランプリに輝いた、「紀州梅酒 紅南高」を作り上げた梅酒の達人だ。
梅酒は食欲を誘うフルーティな香りを放ち、酸味が利いたさっぱりとした飲み口。ほんのりとした甘さがあるので、酒に強くない若年層や女性も親しみやすい。それに加えて、クエン酸などの有効成分によって、疲労回復や血流改善といった健康効果もある。山本さんは、「おいしくて体に良い、日本だけで作られているお酒。それが梅酒の特徴です」と言う。
梅の持つ可能性を科学的に研究
中野BCは、梅の本場・和歌山県の中西部にある海南市に本拠地を置く。1932年にしょうゆの製造販売から始まり、52年から焼酎を中心にした酒造事業に転換した。58年に清酒造りを開始すると、自社ブランド「長久」が和歌山県の出荷量1位となった。日本酒では、「紀伊国屋文左衛門」シリーズも有名。71年から地元の紀州梅の需要拡大を目指して梅果汁の製造を開始し、梅酒の生産を始めたのは79年のこと。
BCとは「Biochemical Creation」の略。社内にリサーチセンター食品科学研究所を設け、梅を中心とした原料を科学的に研究している。果樹の持つ風味や健康効果を酒造事業に活用すると共に、梅の有効成分を抽出した梅エキスや梅果汁などの製造も行う。現在、梅果汁は日本一のシェアを持っている。
酒造メーカーとしてユニークなのが、観光部門を持つことだ。83年、工場敷地内に日本庭園を含めて3700坪もある「長久邸」を建築し、公開を始めた。現在は、梅酒作り体験や試飲ができる工場見学と組み合わせて、「日本庭園のある酒造見学ツアー」と銘打っている。年間約4万人の見学者が訪れており、その中には香港からの観光客を中心とした外国人が1000人ほど含まれている。
梅酒事業と観光事業の拡大を進める3代目社長の中野幸治(こうじ)さんは、「もっと外国の方に、見学に来ていただけるようにと力を注いでいます。多くの方に製造現場を体験してもらうことで、海外での梅酒に対する理解を深めていきたいです」と語る。
梅酒のおいしい作り方
梅酒は元々、家で手軽に作れる酒として愛されてきた。基本的な製法を、中野BCが観光客用に用意している梅酒作り体験キットを使用して説明したい。
1リットルの瓶を使用する場合、材料は梅の実200グラム、氷砂糖200グラム、アルコール分20度以上のホワイトリカー360ミリリットル。梅の実は1粒ずつ水洗いし、たっぷりの水に4時間から一晩浸して、あく抜きをしておく。
①キッチンペーパーなどで梅の実の水気を取ってから、ようじや竹串を使ってへたを取る。②瓶の中に氷砂糖を入れる。③ホワイトリカーを注ぐ。④ふたをしてから、梅の実の間に満遍なく氷砂糖が入るように混ぜれば終了。
瓶に日付や材料を書いたラベルを貼っておくと便利。冷暗所に保存すると、3カ月ほどで飲めるようになるが、熟成させるには6カ月から1年は待った方が良い。完成したら、梅を取り出し、梅酒をガーゼで濾(こ)しながら別の容器に移して保存する。山本さんは、「熟成するまで放置する人が多いようですが、砂糖が均一に混ざるように、時々揺り動かしてあげるのがおいしくするコツ」とアドバイスしてくれた。
今回は、熟した黄色い梅を使用したが、梅酒には青梅を使うことが多い。青梅は傷みづらいので一般家庭での梅酒作りに適しており、酸味が強いために砂糖の甘さと調和するからだ。それに対して熟した梅は、腐食などを気にする必要はあるが、よりフルーティな香りに仕上がるという。「紀州梅酒 紅南高」では、しっかりとした酸味と風味豊かな香りの両方を併せ持っている「紅南高梅」を使用している。
梅酒を世界に広めて地域社会に貢献したい
中野BCでは、56基のタンクに約500トンの梅が漬かっている。地元和歌山みなべ町産の厳選した南高梅を使用して、アルコールと砂糖の浸透圧だけでエキスを抽出し、梅本来の味わいや風味を壊さないようにしている。
タンクごとに梅酒の酸度や糖度を管理して、テイスティングを繰り返し、外温や湿度に合わせてかき混ぜや詰め替えを行う。じっくり熟成させ、約1年半後に本格梅酒が完成する。その作業は、山本さんにとって「梅酒を大切に育てる感覚」なのだと言う
梅酒は家庭で手軽に作れるため、中野BCは「お金を出しても飲みたくなる梅酒」を開発するために試行錯誤を繰り返してきた。そして、生み出したのが、海外での梅酒人気にも一役買っている「カクテル梅酒」。食品科学研究所の高い開発力を生かし、梅酒に緑茶や山椒(さんしょう)、ブルーベリー、いちご、ゆずとジンジャーなど、約30種類のフレーバーを合わせた商品だ。
「甘みの強い梅酒は、海外では食前酒として飲まれることが多いようです。甘さを抑えたカクテル梅酒なら、食事にもよく合います。そして、国によって大きく異なる味や香りの好みに、幅広く対応できることも強みですね」(中野社長)
さらに、健康食品として製品化した梅エキス「紀州の赤本」シリーズは、ムメフラールという有効成分を多く含み、血流改善や免疫力向上のすぐれた効果が認められている。そうした商品開発と梅酒の海外需要の高まりによって、中野BCでは2004年~2009年の5年間で梅酒部門の売り上げが一気に25倍も伸び、現在は会社の売り上げの半分以上が梅関連事業によるものとなった。
「和歌山の企業なので、地元名産の梅を生かした商品開発で地域貢献していきたいです。そのためにも、プラムワインやアプリコットワインといった呼び方ではなく、梅という言葉が入ったumeshuという名前をもっと海外に売り込みたいです。日本酒がsakeと呼ばれて、世界中で親しまれているように」(中野社長)
中野BC「酒造見学」WEBサイト=http://www.nakano-group.co.jp/tour/index/
取材・文=鈴木 尚人撮影=ニッポンドットコム編集部