ポップカルチャーは世界をめぐる

きゃりーぱみゅぱみゅ 越境する「カワイイ」

文化

2012年に大ブレイク、2013年も海外を巻き込んで快進撃を続ける「きゃりーぱみゅぱみゅ」。この突然変異型ポップアーティストが行く先々では、外国人も「カワイイ」を連発する。一体この現象は何なのだ!?

フルネームは“きゃろらいんちゃろんぷろっぷきゃりーぱみゅぱみゅ”©asobisystem

昨年、最もブレイクしたポップアーティストと言えば、きゃりーぱみゅぱみゅ。大みそか恒例の国民的歌謡番組「紅白歌合戦」(NHK)にも初出演し、中高年層にも存在をアピールした。

今年もきゃりーの攻勢はとどまるところを知らない。欧州3都市(ベルギー、パリ、ロンドン)を皮切りに、アジア、北米をめぐる8ヶ国(13都市)18公演の世界ツアー「100%KPP WORLD TOUR 2013」を成功させた。

2月10日のパリ公演の会場は19世紀末に建てられた「La Cigale」。かつてはジャン・コクトーが夜会を催したこともあり、近年では、プリンスやカイリー・ミノーグ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズなど錚々(そうそう)たる大物がプレイしたホールだ。

弱冠20歳のアーティストが、そんな由緒あるステージでライブ。その翌日には、テレビの人気情報バラエティー番組(Canal +局「Le petit journal」)に出演。一昔前なら「シンデレラガール」などと呼ばれそうな快進撃ではないか!

フランスのJ-pop専門番組で「殿堂入り」

Suzuka(浅岡鈴果) 東京都出身のアラフォー女子。フランスの日本オタク・カルチャー専門テレビ局(ケーブル・ADSL)「NOLIFE」に開局から携わった中核スタッフ。日本語の翻訳など制作レベルから、司会、レポーターまでこなす。2011年4月にフランスで初の著書『Paris Japon』をChristine Bonneton社より刊行。

しかし、日本のアーティストが海外で公演すると、日本では往々にして「水増し」の評判が喧伝(けんでん)される。そこで、現地からのリアルな報告をパリ在住の日本人に聞いてみた。フランスの日本オタク・カルチャー専門テレビ局(ケーブル・ADSL)「NOLIFE」の人気レポーター、Suzukaさんだ。

——パリでのライブの入りはどうでしたか?

SUZUKA  正直言って、ライブも即日完売ってわけじゃなく、じわじわ人気が出ている真っ最中のタイミングでしたね。でも、J-pop自体がまだまだ一般的なフランス人に認知されているとは言い難い中で、かなり健闘したと思います。2012年7月の初来仏のときの無料イベントでは、入場制限がかかって中に入れない人が溢れるほどの大盛況でしたから、今回のチケットがもう少し安ければ、フランスの若い子がもっとたくさん来られたのではないかな。

——よく「フランスでJ-popが人気!」という話を耳にするのですが。

SUZUKA  うーん(苦笑)。実際は、J-popの番組はうちの局(NOLIFE)でも視聴率を稼げない。ゲーム番組の人気にはかないません。でも確かにきゃりーは他のJ-popアーティストと比べると人気が高い。番組で彼女のビデオクリップを流していますが、これまで5曲がオンエア開始後すぐにトップ10入り。7週間連続20位以内ランクインで「殿堂入り」しました。「ふりそでーしょん」に続いて「にんじゃりばんばん」も好調で、6曲目の殿堂入りは間違いなさそうです。

スポットライトもハート型!100%KPP WORLD TOUR 2013パリ公演のステージ(2013年2月10日、パリ18区のLa Cigale)より。©asobisystem

 

フレンチ男子も思わず「オタ芸」

——人気の秘密は何だと思いますか?

SUZUKA  J-popという枠にはおさまらない彼女の世界観やファッションでしょう。増田セバスチャンがアートディレクションしているビデオクリップには、きゃりーの魅力が最大限に表れていると思います。東海地方でオンエアされていた彼女の番組「テレビJOHN!」もそうですね。ただ、そんな隅から隅まで計算され、完成されたきゃりーワールドが、コンサートで表現できていたかというと、まだ100%とは言えない気がしました。

——けっこう厳しいですね。

SUZUKA  それは期待しているからですよー(笑)。何しろ今回はフランスで初のワンマン公演でしたから、まだまだこれから。きゃりーとダンサーたちの踊りはとにかくユニークでクオリティーが高かったです。フランス人の観客も手拍子や振り付けを一緒にやって楽しそうだったし。最前列でサイリュームライトを振って「オタ芸」(※1)しているフランス人男子グループの映像を見たでしょ?

「素顔」のきゃりーぱみゅぱみゅ

「原宿カワイイフェス」に出演したきゃりーぱみゅぱみゅ。「原宿カワイイ大使」ステージ衣装以外は「地味め」の服装を選ぶ。オタクにも人気のアイドル「しょこたん」こと中川翔子との珍しいツーショットも(右)。(2012年9月23日、東京・原宿クエストホール)

SUZUKA  それにね、彼女には応援したい気にさせる人柄があります。前回のイベントでは私が司会だったので一緒に楽屋で過ごしたけど、パクパクとグミを食べて可愛らしかったこと!とっても感じのよいお嬢さんという印象を抱きました。初対面のアラフォー女子(私)とも気さくにおしゃべりしてくれたり、私の衣装の乱れを直してくれたり。時差ボケや仕事の疲れもあったはずですよ。日本で大ブレイクした後だったにもかかわらず、お高くとまったところもなく、周囲にも気を配る。やっぱり、スタッフやジャーナリストに愛されるからこそ「売れっ子」にもなれるんだわ、と彼女の成功のベースを垣間見た気がしました。

イヤフォン、カラーコンタクトレンズ、クルマ、菓子、スマートフォンなどCMにも引っ張りだこのきゃりー(原宿カワイイフェス)

——コンサートに来ていたファンも、テレビの取材できゃりーについて「kawaii」を連発していましたね。

SUZUKA  「kawaii」という言葉は、フランスでは「スシ」や「カラオケ」ほど一般に浸透しているわけではないけれど、日本に興味をもつフランス人に限定すれば、「アリガト」や「サヨナラ」と同じ程度にまで広まってきたと言ってもいいかな。単なる「キュート(フランス語ではミニヨン)」という意味で使うのではなく、日本発のポップカルチャー特有のセンスを感じるときに使う言葉のようです。

カワイイとは「グロさ」をあわせもつもの

——日本人でも年配の人になると、若い人が使う「カワイイ」の意味を理解できないことがありますからね。

SUZUKA  きゃりーは先日のテレビ出演で、「カワイイ」の意味をフランスの視聴者に説明したのですが、単純明快で私にはピッタリ合点がいくものでした。フランス人にもわかりやすかったはずです。彼女はこう言ったんです、カワイイとは「グロさ」をあわせもつものであると。 

きゃりーの大ファンという12歳、りな(左)&ゆめ。「クラスのみんなが好きなアイドルには興味ない。きゃりーは誰にも似ていないし、グロいものが好きだったりして面白い」(2012年9月23日、東京・原宿JOL)

フランスの日本好き女子に流行っている日本のファッションに、「原宿ロリータ系」というものがあります。リボンやフリルの付いたピンクや水色の服。星、ハート、テディベア、お菓子といったアイコン。普通に考えて幼い子どものためのものです。一般にフランスでは、思春期を過ぎると「キュート(≠カワイイ)」から卒業して、成熟した女性になろうとしますよね。ところが日本好きのフランス人女性は、こうしたアイコンを用いた大人向けの洋服やアクセサリーを「kawaii !」と言って喜ぶ。それは、常識的なフランス人から見ると、どこか「グロテスク」な悪趣味に見えるに違いありません。

——なるほど。フランス人にとって「kawaii」はかなり際どいセンスなんですね。

SUZUKA  きゃりーと増田セバスチャンは、フランス人から見た幼児性という「グロさ」だけではなく、ドクロや眼球、血やスタッズ(鋲)など、すでに若者の間に浸透し、認知されているゴシックファッションの「グロい」アイコンを組み入れた。そこが新しいところだと思います。

フランス人は、他人と違う個性を出すのが「クール」であると考える人々ですよね。「幼児性」と「グロ」を掛け合わせて「キュート」にしてみせるきゃりーぱみゅぱみゅには、「こんなの見たことない!」という強烈なインパクトを受けたのではないでしょうか。まさに「kawaii !」と叫ぶしかないセンセーションなんでしょうね。

カワイイ写真館(2012年9月HARAJUKU KAWAii!! FES 2012より) 

増田セバスチャン「原宿は、きゃりーちゃんというアイコンを獲得して、より広く価値を認められつつあると思います」

増田セバスチャンがプロデュースする原宿のショップ「6%DOKIDOKI」の常連、(左から)Caro、ちゃみ、りぼん、くまみき、じゅんにゃん。「髪や服をカラフルにすると気持ちがアップします」

増田セバスチャンとともに「原宿カワイイカルチャー」を発信する仕掛人、フォトグラファーの米原康正。自身もショップ「もしもしカワイイ原宿」をプロデュース。「原宿の街全体を巻き込んでのムーブメントがようやく動き始めました」

 

撮影=川本 聖哉

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(※1) ^  アイドルのコンサートなどで、熱烈なファンが応援で行う独特な踊りや掛け声。

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