宮沢賢治の故郷で幻想的な作品世界を体感：岩手県花巻市

多彩な才能を発揮した生涯をたどる「宮沢賢治記念館」

童話『猫の事務所』を題材にしたモニュメントが並ぶ宮沢賢治記念館の入口　写真提供：（公財）岩手県観光協会

宮沢賢治（1896-1933）は、地元の人々から敬愛される岩手県花巻市を代表する偉人。商家に生まれながらも農業を学び、農学校の教壇に立ち、自ら畑を耕して地域の農業発展に尽力した。一方で、芸術、文学、科学といったさまざまな分野でも才能を発揮。賢治が書いた『銀河鉄道の夜』や『雨ニモマケズ』などの童話や詩は、現在も多くの人々に親しまれている。

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宮沢賢治記念館へ続く石畳の小道　写真提供：（公財）岩手県観光協会

「宮沢賢治記念館」（花巻市矢沢）は、東北新幹線「新花巻」駅から程近い胡四王山（こしおうざん）の中腹にある。新花巻駅から「宮沢賢治記念館口」バス停まではわずか2分ほどだが、バス停から記念館の入場ゲート近くの駐車場までは、367段の階段を上るか、500メートルの長くて急な坂道を上るかの二者択一だ。趣のある木造の階段の脇には「雨ニモマケズ」が一文字ずつ記されていて、詩を読みながら上がっていくと少し辛さがまぎれる。途中「ここで半分」などの表示があり、観光客同士で「こんにちは」「もう一息ですよ」と声を掛け合うのも楽しい。ただ、足腰に自信のない人にはおすすめできないので、レンタカーやタクシーの利用も選択肢。記念館の周囲に広がる森の中には、賢治の作品を題材にしたモニュメントが点在するので探してみよう。

童話『よだかの星』で、星となって燃え続ける「よだか」の石碑

館内は、賢治が取り組んだ科学、芸術、宇宙、宗教、農業の5つのコーナーに分類し、直筆原稿や愛用品、著作、研究成果などを展示している。フロア中央のスクリーンでは、各分野における賢治の思想や研究・創作活動について映像で知ることもできる。

ロビー近くの「賢治サロン」では、賢治作品の映像や音楽ライブラリーが楽しめる。展示を見た後にあらためて作品に触れると、彼自身の生活や経験、研究内容が創作活動に強く影響していることが感じられるので、ぜひ利用してみよう。

賢治のチェロと、妹・トシが使っていたバイオリン

【DATA】

• 住所：岩手県花巻市矢沢1-1-36
• アクセス：JR新花巻駅から岩手県交通バス・土沢線で約2分、「宮沢賢治記念館口」下車、徒歩10分
• TEL：0198-31-2319
• 営業時間：午前8時30分～午後5時（最終入館は午後4時30分）
• 定休日：年末年始
• 料金：一般350円、高校生・大学生250円、小・中学生150円
• 多言語対応：HP…英語／中国語（簡体・繁体）／韓国語、パンフレット…英語、施設内案内表示…英語／中国語（簡体・繁体）／韓国語

賢治ファンにはたまらない資料の宝庫「宮沢賢治イーハトーブ館」

木々に囲まれた階段を下ると「宮沢賢治イーハトーブ館」が見えてくる

「宮沢賢治イーハトーブ館」は、賢治作品のファンや研究者の情報・交流センター。宮沢賢治記念館からは、「ポランの広場」を経由して10分ほど下った場所にある。ポランの広場には、賢治が設計した日時計花壇「南斜花壇」が季節ごとに美しい花々を咲かせる。

色とりどりの花が咲き誇る、賢治が設計した「南斜花壇」

館内1階にはホールや展示室があり、賢治や花巻に関連した講演会や演劇、コンサート、企画展示などが開催されている。2階にある図書室は、賢治作品はもちろん、彼を研究した論文や関連する新聞記事などマニアックな資料も公開。まさに、宮沢賢治をより深く知ることができる施設だ。

賢治関連の書籍や資料が並ぶ2階の図書

賢治の童話作品のほとんどは、1階の売店で購入できる。翻訳出版された書籍もあるので、日本語の原文と読み比べてみるのも面白いだろう。オリジナルグッズが多数そろうため、土産物探しにもぴったり。売店の向かいにあるカフェは、賢治作品の愛好者同士が語り合う場にもなっている。

売店「猫の事務所」では、賢治の書籍や関連グッズを購入できる

大きな窓から明るい日差しが入るカフェスペース

【DATA】

• 住所：岩手県花巻市高松1-1-1
• アクセス：JR新花巻駅から岩手県交通バス「土沢線」で約2分、「宮沢賢治記念館口」下車、徒歩5分
• TEL：0198-31-2116
• 営業時間：午前8時30分～午後4時30分（閉館は午後5時）
• 定休日：12月28日～1月1日
• 料金：無料
• 多言語対応：施設内案内表示…英語／中国語（簡体・繁体） 

「宮沢賢治童話村」で作品をモチーフとした世界にひたる

「宮沢賢治童話村」は、賢治が描いた童話の世界を体感しながら楽しく学ぶ施設だ。イーハトーブ館から国道456号線を北側へ徒歩10分ほどで、賢治の詩やオノマトペ（擬声語）を題材にした音楽が聞こえてきたら目的地が近づいてきた証拠。入り口となる「銀河ステーション」のアーチには、宇宙を思わせる幻想的な壁画が描かれていて、いきなり賢治ワールドに連れて行かれる。

広大な村内には、賢治童話の世界を再現した施設やモニュメントが点々と散りばめられている。まるで、賢治が心の中に思い描いていた夢の世界に迷い込んだかのようだ。

宮沢賢治童話村のメイン施設「賢治の学校」へ続く道

なかでも「賢治の学校」はぜひ訪れてほしい。館内に入ると最初に現れる空間が「ファンタジックホール」。真っ白い部屋に夜空や電信柱が描かれた巨木がそびえる、アーティスティックな雰囲気だ。ほかにも、宇宙空間をイメージした赤や青の光がきらめく「宇宙の部屋」、足元に花巻の映像が流れて上空を飛んでいるような気分になれる「天空の部屋」など5つの部屋で、賢治の心象世界を体感しよう。

賢治の学校のファンタジックホール

5棟のログハウス「賢治の教室」では、動物や植物、星といった5つの分野に分けて賢治の作品を紹介している。「星の教室」では、星座をイメージしたオブジェや説明版と、関連する作品の一節を並べて展示。作品に登場する星座のストーリーを読んだり、動植物を実際に見たりすることで、賢治の世界観をより理解できるようになる。

天体や星座に関連した作品を紹介する「星の教室」

売店には童話をモチーフにしたグッズや花巻の名物が並ぶ。かりんとうに黒蜜をかけた銘菓「よだかの星」が人気の定番土産。賢治の童話や詩集を手のひらサイズの豆本にしたシリーズは持ち運びに便利で、土産にも帰り道に作品を読み返したい人にもおすすめだ。

『銀河鉄道の夜』に登場する「白鳥の停車場」をモチーフにした売店

【DATA】

• 住所：岩手県花巻市高松26-19
• アクセス：JR新花巻駅から岩手県交通バス「土沢線」で約5分、「宮沢賢治記念館口」下車すぐ
• TEL：0198-31-2211
• 営業時間：午前8時30分～午後4時30分
• 定休日：年末年始
• 料金：入場無料（賢治の学校は大人350円、高校生・大学生250円、小・中学生150円）
• 多言語対応：HP…英語／中国語（簡体・繁体）／韓国語、パンフレット…英語／中国語（簡体・繁体）／韓国語、施設内案内表示…英語／中国語（簡体・繁体）／韓国語、スタッフによる案内…英語／中国語（簡体・繁体）／韓国語

●周辺情報

イギリス海岸

渇水時のみ見られる貴重な光景　写真提供：（公財）岩手県観光協会

「イギリス海岸」——といっても、海ではない。渇水時に川底の泥岩層が出現する北上川西岸を見て、地質学に精通した賢治が「全くもうイギリスあたりの白亜の海岸を歩いてゐるやうな気がするのでした」とあだ名を付けたのだ。そのエピソードが書かれた短編『イギリス海岸』を読むと、教師時代に生徒を連れてたびたび訪れるほど気に入っていたことが分かる。

現在は、ダム整備によって川の水量が保たれており、当時と同じ光景を見るのは難しい。賢治の命日である9月21日には、放水量を絞って「イギリス海岸」を再現している。

【DATA】

• 住所：岩手県花巻市上小舟渡
• アクセス：JR花巻駅から岩手県交通バス「大迫花巻線」で約6分、「イギリス海岸」下車、徒歩5分
• TEL：0198-24-2111（花巻市役所観光課）

取材・文・写真＝シュープレス
（バナー写真＝木立に囲まれた敷地には小川が流れている　写真提供：公財 岩手県観光協会）