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視聴率低下、若者離れ—転換期迎える日本のテレビ局

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スマートフォンやタブレット型端末の急速な普及により、「マスメディアの王者」テレビも転換期を迎えている。民放各局は広告収入の伸び悩みをカバーするため、オンデマンドの有料放送や「CM付き無料配信」など、ネットと融合したビジネスモデルを模索している。

地上波テレビ、広告費は横ばい

日本のテレビ広告費(地上波)は2009年~2013年の5年間、1兆7000億円台と横ばいで推移。2006年までは2兆円を超えていたが、リーマン・ショック後の落ち込みから回復できないでいる。一方、インターネットの広告費はこの10年足らずの間に倍増し、13年には9000億円台に達した。(下図)日本人にとってテレビはまだまだ「娯楽の王者」と言えるが、主要メディアを広告費の観点から見ると、テレビは「停滞・衰退産業」と言えなくもない。その背景にはテレビ視聴形態の多様化と、若者の“テレビ離れ”がある。

総務省の統計によると、日本の「テレビ平均視聴時間量」は現在、平日で1日約3時間40分、休日では1日約4時間10分で、1980年代に比べてむしろ増えている(下図)。だが、より細かく視聴形態をみると、テレビの長時間視聴は高齢者に支えられていることが分かる。

20代は「テレビよりネット」

総務省が2013年に実施した「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によると、若年層(10代、20代)ではテレビ視聴(リアルタイム)にかける時間とネットを使っている時間がほぼ同じで、20代ではネットが「もっとも利用するメディア」の座を占めている。一方で、60代のテレビ視聴時間は平日でも4時間を超え、若年層の2倍以上となっている。

中高生などは現在、テレビよりもYou Tube やニコニコ動画で音楽やアニメ、バラエティ・お笑いなどの動画コンテンツを楽しんでいると言われている。

広告営業に直結するためテレビ各局が一喜一憂する視聴率も、漸減傾向。この背景には、視聴率データに反映されない録画視聴のさらなる普及がある。放送の完全デジタル化(2011年)によりテレビ機器の買い替えが進み、録画機の操作は飛躍的にやさしくなった。画面に映した番組表から録画したい番組を選ぶだけ。同時間に複数の番組を録画できる機器も普及している。

野村総合研究所が14年3月に実施した、全国7500人対象のアンケート調査によると、地上波のテレビ番組をリアルタイムに視聴した人が10人いた場合、録画して視聴した人はさらに2人いるという結果に。ドラマや映画などに限ればさらに増え、リアルタイム視聴者10人に対し、録画視聴者は6~7人に達した。

日本のテレビ放送

地上放送 NHK(公共放送)   全国54局
民間放送 NNN 日本テレビなど 30局
JNN TBSテレビなど 28局
FNN フジテレビなど 28局
ANN テレビ朝日など 26局
TXN テレビ東京など 6局
ほか独立系など  
衛星放送 BS
(放送衛星) 
NHK BS1、BSプレミアム  
無料民放 BS-TBS、BSフジなど  
有料民放 WOWOWプライムなど  
CS
(通信衛星) 
衛星基幹 41社、83チャンネル  
衛星一般 59社、293チャンネル  

(2014年4月現在)

放送と通信の境目なくなる

テレビの完全デジタル化を経て放送と通信の境目がなくなってきた環境の中、民放キー局や衛星放送各社は番組コンテンツを有料でネット配信するサービスを展開。通信会社による配信事業にコンテンツを提供するケースも出ている。NHKも08年から、放送した番組をインターネット経由で提供する有料サービス「NHKオンデマンド」を始めている。

14年1月には日本テレビが、放送後の人気テレビ番組をネット経由で視聴できる「無料見逃し配信サービス」を開始。放送後1週間の期間限定で、テレビで流れたCMとは別企業のCM付きで配信したところ、再生回数は順調に増加し、10月にはTBSが追随した。この無料サービスは、連続ドラマを1度見逃した視聴者に「翌週にはテレビの前に再び座ってもらえる」効果が期待でき、視聴率の維持・向上にも寄与するとの見方が出ている。

日本民間放送連盟の井上弘会長は9月の記者会見で、在京の民放キー局5社が放送後のテレビ番組を無料で流す共同サイトをつくる検討を始めることで合意したと明らかに。CMを飛ばしては見られない技術を導入し、広告収入を得て無料配信することを考えているという。だが、地方の系列テレビ局の理解を得る必要があるなど、実現には課題もあるようだ。

日本のテレビ放送の歩み

  社会の動き
1953 テレビ本放送開始  
1958 東京タワー完成  
1960 カラーテレビ本放送開始 安保闘争
1963 初の日米間テレビ衛星実験に成功 ケネディ米大統領暗殺
1964 東京五輪を欧米へ衛星中継 東京五輪
1971 NHK総合テレビが全面カラー化 円切り上げ
1972 あさま山荘事件を長時間中継 沖縄返還、日中国交回復
1978 日本初の実験用放送衛星打ち上げ 成田空港開港
1989 衛星放送の本放送開始 昭和天皇崩御、ベルリンの壁崩壊
1992 CSテレビ放送(アナログ)開始  
1996 CSデジタル放送開始 住専処理に公的資金
2000 BSデジタル本放送開始 沖縄サミット開催
2006 全都道府県で地上デジタル放送開始 ライブドア事件
2011 地上アナログ放送終了(東北3県除く) 東日本大震災
2012 地上デジタルへの移行終了 自民党が政権復帰

今後注目の4K放送

今後のテレビ放送で注目されているのが、現行のフルハイビジョンより高精細な映像が楽しめる「4K」技術。国内メーカーはすでに4Kテレビを発売しており、14年6月にはCS(通信衛星)で試験放送を開始。光回線を使って映像配信サービスを行う通信各社も、4K市場に参入を始めた。

総務省は16年にもBS(放送衛星)で4K試験放送を開始し、18年の本放送開始を目指している。20年には東京五輪が開催されるため、それまでに家庭でも4K放送を気軽に楽しめる環境を整えたいとの考えがある。しかしテレビ局にとっては、4K放送を切れ目なく行うには巨額の投資が必要。地上波デジタル化で多額の設備投資を行った民放各社は、推進に慎重な姿勢を示している。

タイトル写真:4KのCS試験放送開始にともない、記念式典の会場に設置された4Kテレビ=2014年6月2日、東京都千代田区(時事)

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