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レッドタートル ある島の物語(2016年9月)

文化 Cinema

スタジオジブリが10年をかけて初の海外共同制作に挑んだ意欲作。短編アニメ『岸辺のふたり』で米アカデミー賞に輝いたマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督が生命と自然の神秘をミニマリズムの美で描く。

作品情報

原作・脚本・監督=マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット
脚本=パスカル・フェラン
アーティスティック・プロデューサー=高畑 勲
プロデューサー=鈴木 敏夫/ヴァンサン・マラヴァル
音楽=ローラン・ペレズ・デル・マール
製作=スタジオジブリ/ワイルドバンチ
製作年=2016年
製作国=日本/フランス/ベルギー
配給=東宝
上映時間=81分
公開日=9月17日(土)
公式サイト=http://red-turtle.jp/
フェイスブック=https://www.facebook.com/redturtle.movie/

見どころ

マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットは短編アニメの監督として、1990年代からすでに世界的に高い評価を受けてきた。代表作『岸辺のふたり』(2000年)は米アカデミー賞をはじめ数々の栄冠に輝いている。60歳を過ぎて今回の『レッドタートル』が初の長編作品になったとはやや意外だ。

それまで長編にはほとんど関心がなかったという。「何人かの友だちが、素晴らしい話をもらってカリフォルニアに旅立ち、プロデューサーに企画を改変されて、がっかりして帰ってきた。でもジブリは違った」。長編に挑戦する気になったのは、敬愛するスタジオジブリに「監督の意思を全面的に尊重する」と話を持ちかけられたからだ。

シナリオを書くためにセーシェル諸島の小島を訪れた。リゾートホテルから遠く離れた島民の家に滞在し、孤独な散歩を続けた。すでに孤島に漂着した男を描く着想があり、島の景色を何千枚とカメラに収める必要があったのだ。荒々しい手つかずの自然でなくてはならなかった。「遭難した主人公が好きになるような場所ではいけない。彼は何としても島を出て、家に帰りたいと願うのだから」

そこからは、まるで筏(いかだ)を組み立てて大海原に漕ぎ出すように、長大な時間をかけ、気の遠くなるような作業が続けられたのだろう。構想から完成まで、実に10年の月日が流れた。ただし、孤島の住人と違ったのは、ジブリという対話相手がいたことだ。

ジブリにとっても、初の海外共同制作という挑戦があった。その結果、初めてカンヌ映画祭に作品を送り込み、「ある視点」部門特別賞を受賞した。辛口で知られるフランス・メディアの映画評論家たちから満場一致と言っていいほどの激賞を受けた。「不朽の名作」(20ミニュット紙)、「完璧な映画」(レクスプレス誌)といったこれ以上ないシンプルな褒め言葉が並ぶ作品も珍しい。

その中で唯一、ルモンド紙のイザベル・レニエだけが、この監督には短編のほうが合っている、とほんの少しネガティブな含みをもたせた。彼女は、後半に入るにしたがって物語が「沈静化」したというのだ。確かに後半、物語は大きな転換点を迎える。その是非は実際に見て考えてほしい。もちろん彼女も、「セリフなしで最初から最後までクギ付けになった」と圧倒的な絵の美しさに魅了されたことを素直に認めている。

※監督のインタビューはフランス公開時のプレスリリースに掲載されたポジティフ誌2016年7-8月号から引用。

文=松本 卓也(ニッポンドットコム多言語部)

予告編

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