少子高齢化が急に進む中国で義務化された「親孝行」
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高齢化を背景にした法律改正により「精神面の親孝行」の義務化
中国では、古来より「百善孝為先」(百の善行の第一は親孝行から)という教えがあるほど、「親孝行」が伝統文化の中で美徳として重視されてきた。現行憲法にも「扶養扶助(親孝行)」の義務が明記されている。
「多子多福」(子供が多ければ幸せも大きい)といわれてきたが、経済も発展し、一人っ子政策の影響もあって、日本と同様に少子高齢化が深刻化してきた。60歳以上の人口は2億2999万人(2015年)と日本の総人口の1.7倍にもなる。この結果、伝統的な幸福観や家族観も大きく変貌し、親の面倒をみないとして子供を裁判に訴えるケースが増えている。
表1 中国家庭内外環境の変化
家庭規模が縮小(以下は平均家庭人数) | |||
---|---|---|---|
1950年代前 | 1990年 | 2010年 | 2012年 |
5.3人 | 3.96人 | 3.10人 | 3.02人 |
子供の数は減少・1人~2人家庭増加 | |||
1~2人家庭数は、2000年の全家庭数の25%から2010年の40%まで増加。1人家庭数は100%増、2人家庭数は68%増 | |||
「空巢老人」(高齢者のみの家庭)増加 | |||
全国家庭総数 | 高齢者家庭 | 高齢者総数 | 「空巢老人」 |
約4.3億世帯 | 0.88億世帯 | 2.2億人 | 1.1億人 |
「失能半失能老人」(要介護高齢者)増加 | |||
要介護高齢者数 | 要高度介護者数 | 施設入居総数 | 施設高度介護 |
4000万人 | 1200万人 | 300万人 | 100万人以下 |
出典:『中国家庭発展報告(2015)』等資料より著者作成
2013年7月に、「高齢者権益保障法」が改正され、「高齢の親と離れて生活している子供は定期的に帰省して、親に顔を見せなければならない」という条文が新たに追加された。物心両面で親孝行を促す狙いがある。
この法改正が施行されるや、ネット上で議論が白熱化した。多くの人々は、高齢者の基本権利が道義上だけでなく法律上でも明確にされたことが高齢者の福祉につながると賛成した。一方で、反対派は「法的に強制力がなく実行性に欠ける」と主張し、たとえば、「子供はどれほどの頻度で親を見舞いに行かねばならないか」について具体的な規定がないとか、「親に会いたいと思っても仕事や経済的な理由で行けない」といった意見が出された。
北京市が初めての「孝老假」(親孝行休暇)を推進
北京市政府は、2016年8月に、「高齢化事業発展計画」を可決した。この計画は、「高齢者に優しい大都市」を目指し、その一環として、企業などの雇用者に対して「孝老假」(親孝行のための休暇)を従業員に与えることを勧告している。
中国では、毎年旧暦の9月9日が伝統的な「重陽節」(家族が集まる四大伝統節日のひとつ)であり、「敬老日」とも定められている。今年の「重陽節」は10月9日だが、この日を国の休日と定めて、「孝老假」を取りやすくすべだ、というアイデアも提案されている。
「親孝行」を促す上海市の「信用登録」「注意喚起」制度
上海市でも今年5月に高齢者権益保障条例が施行された。この条例には、「信用情報登録制度」が設けられた。高齢者からの訴えに基づいて、裁判所が「つねに親に会いに行かなければならない」と判決を下した場合、もしも子供やその家族がその判決を無視したり、拒否したりした場合、「上海市公共信用情報帰集及び使用管理弁法」の規定によって「ブラックリスト」にその情報が登録される。これはその当事者の信用に不利な影響が出てくる可能性がある。
さらに、高齢者施設側には注意喚起制度が設けられた。国の「高齢者権益保障法」から一歩踏み込んで、子供やその家族に対して施設に入居している親を定期的に訪れることを義務づけた。同時に高齢者が入居している養老施設には、「長い期間、親に会いに来ない子供や家族に対して来訪を促すよう注意を喚起する」という義務が課せられた。
この「信用登録制度」と「注意喚起制度」は、親孝行義務化の実行性が具体化された施策の一例だと思われる。
日本ではどうだろうか。お盆や正月の休みにだけ実家に帰省する人が多く、何年も親元には帰っていないという人も少なくないだろう。いずれ、日本でも「親孝行法」を施行する時代がくるのだろうか。