【第2回】北神 圭朗(経済産業大臣政務官)
政治・外交- English
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福島第一原発の廃炉に向けて
竹中 2011年9月に経済産業大臣政務官に就任されて、現在の仕事の内容からお聞かせください。
北神 経済産業省の課題は山積しています。福島第一原発事故への対応。東日本大震災の復旧・復興、特に中小企業対策が経済産業省の担当です。また、円高などによる産業空洞化への対策。中長期のエネルギー対策。これには電力会社の改革、原発の再稼働の問題なども含まれます。TPPやCOP17などもあります。政務官として、これら全部に関わっています。
竹中 国民的にはやはり、原発事故への注目度が高いです。
北神 現在、ステップ2の冷温停止状態にまで進むことができ、野田総理が「収束宣言」をしました。その言葉がよかったかどうかは別にして、これから長い年月をかけて、事故が起きた原子炉を廃炉にしていくために、再臨界が起きないような安定的な状況を作りだすことが必須でした。そのためのステップ2達成であるということを、国民の方々に伝えたかったのです。
政府は、2011年12月に「政府・東京電力中長期対策会議」を発足させ、福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップを公表しました。枝野幸男経済産業大臣と細野豪志原発事故担当大臣が共同議長に就任し、私は、内閣府の園田康博政務官とともに副議長になりました。その下に、研究開発推進本部という組織ができて、私が本部長です。燃料をとり出すためにロボット技術などが必要なので、研究開発をしながら、福島第一の廃炉解体に向けて作業を進めるという試みです。
竹中 メーカーや、国立大学の研究機関なども巻き込んでの動きですか。
北神 産業技術総合研究所(産総研)も含めて、産官学が連携して廃炉に向けての研究開発を進めていこうとしていますが、これが大変なんです。
先日も産総研に行って、開発中のロボットを見てきましたが、研究者が頭を抱えている問題があります。事故現場の状態の詳細がまったくわからない。このため、どういう機能のロボットを開発すればよいのかを決められない。例えば格納容器に穴が開いているなら、穴を埋める作業ができるロボットが必要であるとか、現場付近に水が溜まっているなら水中で活動できるロボットが必要であるとかいうことです。放射線量が高いため人間は入れないので、遠隔作業が必要ですが、瓦礫が多い中で、無線で動かせるのか、コードをつないで操作できるのか、見極めなければならないことがたくさんあります。だからこそ、現場の状況を把握するために冷温停止が必要でした。
政府には電力の安定供給の責任がある
竹中 原発の再稼働には各県の知事の許可が必要ですが、ある意味で、沖縄の普天間基地的状況に陥っています。2012年の夏、さらに厳しい電力不足が予想される中で、どのような対応を考えているのでしょうか。
北神 節電対策、自家発電、火力の増強等、やれることは最大限やっていくつもりです。この冬は何とか乗り越えられる状況ですが、それは多くの企業の犠牲の上に成り立っていることを、深く理解しなければならないと考えています。
しかし、この夏に電力需要が高まれば、安全安心を確保の上、原発の再稼働が必要になるかもしれません。今、政府の信頼は失墜していますから、資源エネルギー庁、保安院、原子力安全委員会だけではなく、有識者を集めて安全性を確認してもらい、最後にはIAEAにまでお願いして、外部の意見を取り入れて、地元の皆様に「これで安心できますね」というところまで持っていきたいと考えています。同時に、発送電分離の在り方も含めて、電力改革についても検討する必要があると思います。
竹中 IAEAまで巻き込んで、というのは非常に難しいと思いますが、電力の安定供給を確保できなかった場合は、産業の空洞化が進む危険性もあります。電力問題の最終的な危機管理については、どのようにお考えですか。
北神 私は、原発の再稼働が最後の砦だと考えています。もちろん、火力をできるだけ充実させるように電力会社にも指示しておりますし、あらゆる努力を惜しまないつもりです。しかし、産業の空洞化という観点からいえば、原発の再稼働を、国がどこまで指導力を持って実施するか、というのがポイントだと思います。
地元の了承というのは、政治的には非常に重いものですが、あくまでも手続きの一つです。はっきり言えば、危機管理ということで最後は国の権限で電力の安定供給を図る必要も考えられます。そういう状況にならないように、安全を確保しつつ、安心感を持っていただくために、今から丁寧に、地道に、地元の方々と話し合いを行っています。
TPP参加は外交戦略上も重要
竹中 TPPについてもお聞かせください。前から不思議に思っていたのですが、交渉に参加するかどうかという段階で、なぜ、あれほど与党からの口出しが入るのですか。
北神 私も不思議です(笑)。通商交渉権は行政権に属しますから、本来は、何もおうかがいを立てる必要はありません。しかし、何でもそうですが、行政権に属するものでも、外交でも、与党議員が別の考えを持っていたら、政府としても誠意を持って説明する必要があるということで、今回も話し合いを重ねてきました。TPPについては、経産省の政務三役の中では私が担当で、与党の慎重派議員との話し合いの窓口を務めました。打たれ強さを買われての指名だったかもしれません(笑)。
竹中 TPPに関連して、中国や韓国との個別のFTAの交渉再開という話も聞こえています。
北神 野田総理がTPPへの関心を明言して、日本のメディアでは「玉虫色」などと言われましたが、あの発言だけで、中国の姿勢が変わり「FTA」をぜひやろうということになりました。中国は「日本が米国と経済圏を作ろうと決断した」ととらえて、あわてて「日中」「日中韓」「ASEAN+3」の経済連携が必要だと言い出したようです。以前は、日本側がいくら呼びかけても反応は芳しくありませんでしたが。レアアースの問題でも、今までは全然取り合ってくれなかったのが、野田総理の発言の後は、実態は変わらないながらも、姿勢が軟化してきています。
日本の外交でいえば、中国の台頭が一番大きな不安定要素であると、私は20年ほど前から言っているのですが、これにどう対峙するかを日本が現実的に考えようとするときに、TPPというのは、外交戦略としても重要だと思います。米国のセオドア・ルーズベルト元大統領(1858~1919)が言ったように「静かに語り大きな棍棒を持つ」というのが中国への政策だと思います。だから下手なことをするなら我々だって厳しい対応をしますという構えが重要。その場合は日本単独では無理だから、そこであらかじめ米国とかオーストラリアとか韓国と組みながら、できるだけ先進国並みの経済的な慣習・ルール、こういったものに従ってもらわないといけないというメッセージを各国と連携して発信していかなければならない。
軍事力も重要です。実は、民主党政権になって北海道の戦車の数を減らして、南西の方に海上自衛隊の力を増強しています。これは明らかに中国への牽制につながります。
日本の政治を混迷に陥れた3つの原因
竹中 経産省だけではなく、日本の政界全体についてもうかがいたいと思います。小泉政権以降、総理大臣が毎年変わるということが、政治の混迷の象徴だと思いますが、北神さん自身は、この理由についてどのように考えていますか。
北神 3つの原因があると思います。一つはやはり、参議院の問題。参議院の権限が強すぎることです。二つ目は、各政党の党内のマネジメントの問題。そして、第三に国民世論の問題。いわゆるマスコミ主導の世論が、あまりにも移ろいやすいことです。
参議院は竹中さんの方が専門ですが、どんな政権であっても、参院選で敗ければ法案を結局参議院でひっくり返されるというのは困ったことです。
次の政党のマネジメントも非常に重要な話で、先ほどのTPPへの対応もそうですが、政党の執行部が決めたら所属議員は基本的に従うというような組織文化や、それを裏付ける人事制度を作らないと、日本の政治はなかなか安定しません。
こうした視点からも、真の意味での政府与党一元化が必要です。本当はもっと副大臣、政務官のポストを増やして、与党内の不満分子を少なくすべきです。中国の「礼記」に「小人閑居して不善を為す」という言葉がありますが、暇があるとロクなことをしないので、与党内の不満分子になりそうな人にも政権公約に勤しむとか、課題を与えられるようなシステムがあればよかったです。
前の菅代表時代の執行部が、あまりにも党内融和を乱すような人事をしたことにも問題がありました。例えば、選挙に負けた幹事長を官房長官に起用するとか。うちの枝野大臣自身には問題はないと思いますが、党内に「何だ、これは」と感じる議員がいても仕方ありません。
政策決定の道筋についても、党内で議論したものを政調会長がまとめて、代表、幹事長との三役会議で決定する、というのが基本ですが、自民党のように長く続いてきた組織決定の形はまだありません。民主党はこの辺があいまいで、責任の所在も不明確になる。結局、ずっと議論しましょうという、引き伸ばし作戦が通用してしまいます。
第三の理由として挙げた、世論・有権者の問題ですが、バブル崩壊以降、誰がやっても政治の仕事は不人気な課題しかないという状況を国民も冷静に考えてもらいたいと思います。消費税が象徴的ですが、痛みを生じる改革は、大筋では了解を得られていても、各論になると大反対となるわけです。ただし各論でも公務員改革と政治改革の二つだけは反対はありません。しかしながら、これについても、どこまでやるのかと、具体的な財源としてどのくらいの効果があるのかを、冷静に分析することが必要ですね。
マスコミの問題も大きい。フランスの哲学者アランが、一番幸福な仕事は自分ですべてコントロールできる仕事だから、職人は非常に幸せな職業だというようなことを言っていましたが、今の日本の政治家の仕事は自分では何もコントロールできない非常にストレスが溜まる職業です。マスコミが事実と違う内容を報じていて、「あれは嘘ですよ」と私が言ったら、物知り顔の人が「北神くん、本当の話としてマスコミに出ているんだから、君がいくらそれは違うと言ったとしても関係ないんだよ」と教えてくれたほどです。マスコミに翻弄される状況を変えなければ、いつまで経っても、政治が指導力を発揮できないでしょうね。
嘘つき、無能政党と呼ばれても
北神 次の選挙が厳しいですから、明言はできません(笑)。今、民主党は嘘つき、無能政党と言われていますから、これをひっくり返すというのはなかなか難しいです。
私は、世界の中で一流とされる日本にしか興味がありません。静かに隠遁して年金を充実させて、みんなでビールを飲みながらプロ野球をテレビで見て、安心して暮らそう、なんていう未来には関心が持てないのです。やはり背伸びしながら、世界の闘争の中で、日本の国益を増進していこうという日本を作っていきたい。そういう時代なら総理大臣という仕事は魅力があるかもしれません。政治で一番大事なのは機、機会です。時代に合わないときにワーワー言っても、なにも変わりません。
竹中 機に恵まれて首相になったら、どんな政策を最重要視しますか。
北神 あえて言うと、「人物教育」というものを義務化したいと思います。
日本の歴史上の、あるいは現代に生きる人の中で、一級といわれる人物について、小学生を対象に教師が熱意を持って教える授業です。例えばイチロー選手の半生について。彼はプロに入ったときは二軍だったけど、今は世界で活躍している。「野球で何が一番大事か」という質問に「道具を大事にすること」と答えたそうです。これは一種の日本的な美意識ですよね。こういうことを子どもたちに伝えたいと思います。
この「人物教育」の何がよいかというと、「憧れ」は教育の原点で、子どもたちは、自分もあのようになりたい、自分も頑張ろうという風に感じることができます。また、日本にはこんなに素晴らしい人物がいるということを知れば、愛国心を育むことができる。そういうことを一石二鳥でできるでしょう。こういう教育で、国家に対する健全な愛国心と、その裏にある責任感を国民一人ひとりが持つことで、国際社会の中でも勝ち抜く素地ができると思います。
竹中 人物教育というお話がありましたが、戦後の首相の中で北神政務官が尊敬する方はいますか。
北神 岸信介さんです。太くて短い政権運営をされる中で、総理大臣の在任中に安保改定を成し遂げたからです。日本とアメリカのいびつな関係をできるだけ対等なものにしようという意味での安保改定でした。そのためには政治生命を犠牲にしても、やり抜いたという点で非常にすごい総理大臣だったと思います。
撮影=高島 宏幸