日本の教員はなぜ世界一多忙なのか?-強制される「自主的な活動」
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世界最長の勤務時間
日本の教員が悲鳴を上げている。早朝から夜遅くまで、さらには土日まで出勤し、十分に休みをとることもなく、また新しい週が始まっていく。
経済協力開発機構(OECD)が世界34の国・地域の中学校教員を対象に行った「国際教員指導環境調査」(日本では2013年2月~3月に実施)によると、日本の教員の勤務時間は、調査した34の国・地域の中で最長であった。
最長となった理由は、授業時間数の長さではない。授業に費やした時間は、調査参加国・地域の平均を下回っている。日本の教員は会議や授業準備など複数の項目で、他の国・地域の教員と比べて時間を長く使っている。とりわけ顕著なのは、課外活動に費やす時間の長さである(図1参照)。
「部活動」が長時間勤務をもたらしている
OECD調査における「課外活動」とは、日本においてはいわゆる「部活動」を指すと考えてよい。
日本では中学校や高校といった中等教育機関において、授業前の早朝や放課後、さらには週末に、生徒は教員の指導の下、スポーツや文化活動に参加する。教員はこの部活動の指導に多くの時間を費やしている。
国が学校における教育の具体的な目標や内容を定めた「学習指導要領」によると、部活動の目的は、「スポーツや文化及び科学等に親しませ、学習意欲の向上や責任感、連帯感の涵養(かんよう)等に資する」(「中学校学習指導要領」「高校学習指導要領」の「第1章総則」)ことに求められる。そしてその場が、学校という公的な性格をもった機関によって、低額で生徒に提供されている。すなわち、部活動の意義とは、「授業以外においてスポーツや文化活動に親しむための機会が、生徒に低額で保障されていること」とまとめることができる。
日本特有の「部活動」
学校が授業前後の時間帯や週末に、生徒のスポーツや文化活動に積極的に携わるのは、世界的に見て珍しい。授業以外のスポーツ活動がどこで行われているかを示した国際比較調査(表1参照)によると、日本を含むアジアの各国では、学校でスポーツ活動が実施されているが、他の多くの国では、コミュニティにあるクラブが青少年のスポーツ活動を支えている。
表1 世界の中学校・高校におけるスポーツ活動の場
学校中心型 | 学校・地域両方型 | 地域中心型 | |
---|---|---|---|
日本 中国 韓国 台湾 フィリピン | カナダ アメリカ ブラジル スコットランド イングランド オランダ ベルギー フランス スペイン ポルトガル | ポーランド ソ連(現ロシア) イスラエル エジプト ナイジェリア ケニア ボツワナ マレーシア オーストラリア ニュージーランド | ノルウェー スウェーデン フィンランド デンマーク ドイツ スイス ザイール(現コンゴ) イエメン タイ |
出所:中澤篤史「運動部活動は日本独特の文化である―諸外国との比較から」『SYNODOS』(2015年1月27日)
さらに言うと、アジア各国の中でも、日本はとりわけ部活動の規模が大きい。この国際比較調査を行った、部活動の歴史に詳しい早稲田大学の中澤篤史准教授によれば、「青少年のスポーツの中心が運動部活動にあり、かつ、それが大規模に成立している日本は、国際的に特殊である」(※1)という。
「自主的」という名の強制
国の学習指導要領には、部活動は「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」と記されている。正規のカリキュラムの外において、生徒が自らの希望で好きなスポーツや文化活動に参加するのである。これが部活動の根本原理である。
しかしながら、その内実はまるで異なっている。なぜなら、自主的な活動であるはずのものが、実際のところ、学校によっては生徒全員が強制されているからだ。
また、義務付けられていなくても、現実にはほとんど全ての中高生が部活動に所属している。ベネッセ教育総合研究所が実施した2009年の調査(『第2回子ども生活実態基本調査報告書』)によると、全国で9割の中高生が部活動に所属している(過去に所属した場合を含む)。生徒にとって部活動の参加とは、自主的というよりはむしろ、強制的と言ったほうがよさそうだ。
教員に強制される「全員顧問」
理念上の部活動は、「自主的な活動」である。これは生徒だけに当てはまることではない。部活動の顧問教員もまた、ボランタリーに指導を担当していることになっている。
そもそも部活動は、学校のカリキュラムに定められた教育内容ではない。つまり教員には、部活動を指導する義務はない。生徒の部活動の面倒を自らの意志で見ているというわけだ。
しかし実際には、特に中学校では多くの学校において、「全員顧問」が慣行となっている。やや古い調査だが、文部科学省の全国調査(2006年度実施)によると、ほぼ全員にあたる92.4%の中学校教員が部活動の顧問を担当している(図2参照)。自分の意志に関係なく、顧問が強制されていると言ってよい。
「教育者」である前に「労働者」
教員による部活動指導は、建前上は自主的なものである。従って平日の部活動指導において、勤務時間を超えて何時まで指導を続けようとも、教員が手当を必要とすることもなく、自分勝手にやっているだけにすぎないとみなされる。週末も、数千円程度の手当が支払われるだけで十分とみなされる。部活動が「生徒に低額で保障されている」ことの裏側には、教員の賃金不払い労働が横たわっている。
「自主的」という名の下に不払い労働が許され、しかもそれがほぼ全ての教員に強制されている。日本の教員における世界最長の勤務時間というのは、単純に勤務時間が長いこと以上の問題を含んでいる。
教員は「教育者」である前に「労働者」である。部活動の負担が改善されることで、教員は健全な「労働者」としての立場を取り戻すことができ、ようやく健全な「教育者」として生徒に向き合うことができる。そのための知恵を、私たちは生み出していかなければならない。(※1) ^ 『運動部活動の戦後と現在』(青弓社、2014、p. 47)