初の女性駐日米国大使、キャロライン・ケネディとどう向き合うべきか

政治・外交

次期駐日米国大使の指名を受けたキャロライン・ケネディ氏。知名度に反して政治的手腕は未知数だとの懸念もあるが、日本はケネディ氏に対する米メディアの注目の高さを前向きに活用するべきだ。米国政治外交の専門家・中山俊宏青山学院大学教授が考察する。

オバマ政権は7月24日、ジョン・ルース駐日米国大使の後任として故ケネディ大統領の長女キャロライン・ケネディ氏を起用すると発表した。ケネディ氏の名前はすでに2月頃からうわさとしてはあがっており、日本でもその行方に大きな関心が集まっていた。ここ数カ月間、日米の関係者が顔を合わせると、まるであいさつを交わすかのように「ケネディ大使をどう思う?」と尋ね、互いの意見を披露し合うような場面がいたるところで見られた。

今回も、日米の主要メディアはケネディの指名を一斉に報じ、日米両国民が「ケネディ」の名に依然として魅惑されていることを物語っていた。日本が、駐日大使人事に関心を寄せるのは常のことだが、米国でこれほど駐日大使人事に関心が集まったことはなかっただろう。大使は、上院の承認が必要となるが、予想される大きな問題はなく、公聴会の日程が確定しさえすれば、初の女性駐日米国大使の誕生ということになる。

別格の「大物」大使から大統領の「友人」へ

これまで駐日大使には、数多くの「大物」が任命されてきた。なかでも多数派上院院内総務を長らく務めたマイク・マンスフィールド大使(1977~88年)は、米国でも深く敬愛される政治家であり、在任中に日米間で生じた熾烈(しれつ)な経済摩擦が過剰にヒートアップしないよう、その影響力を太平洋の両側で存分に行使した。そのマンスフィールド大使は、日米関係を「世界で最も重要な二国間関係」と評し、日米関係の緊密さと重要性を象徴的に体現する存在として、圧倒的な存在感を誇る大使であった(※1)

マンスフィールド大使の他にも、カーター政権の副大統領であったウォルター・モンデール大使(1993~96年)、下院議長を務めたトマス・フォーリー大使(1997~2001年)、マンスフィールド大使と同様に上院院内総務を務めたハワード・ベーカー大使(2001~05年)など、各国に派遣される大使の中でも駐日大使は別格の存在であった。

近年は、「大物」というよりかは、大統領との距離の近さが強調され、ジョージ・W・ブッシュ政権二期目に大使に就任したトーマス・シーファー氏(2005~09年)、現大使のジョン・ルース氏(2009年8月~)のいずれも、必要とあらば大統領と直接話せる親密さが強調されるようになった。シーファー大使は、大リーグ球団テキサス・レンジャーズの共同経営者としてブッシュ大統領と親交を深め、ルース大使は大統領選挙中にオバマ・キャンペーンに大口資金を提供した大物ドナーだった。

日米関係の成熟時代における駐日大使の役割

ケネディ氏は、米国における知名度という点では、これまでの大使の中でも群を抜いている。ただし、政治的キャリアという点ではほぼゼロに近く、これまでの大物大使の類型とは合致しない。むしろ、まわりからの期待に反し、意識的に政治とは距離をおいてきたような経歴の持ち主である。叔父の故エドワード(テッド)・ケネディ上院議員の大統領キャンペーンとオバマ・キャンペーンにかかわった以外は、目立った政治活動はない。

今回、オバマ大統領がケネディ氏を任命したのは、2008年と2012年のオバマ・キャンペーンにおいて、極めて重要な役割を果たしたことが大きく作用したというのが専らの見方だ。特に2008年の大統領選挙において、ケネディ氏と故テッド・ケネディ上院議員がオバマ候補への支持表明をした際には、ケネディ家の政治的バトンがあたかもオバマ候補に手渡されたかのような象徴的な意味合いをもった。

ケネディ氏が、政治的キャリアを欠き、外交経験がほぼゼロであることを懸念する声は小さくはない。確かにこれらの知識と経験を欠いていることがプラスに作用することはないかもしれないが、それに過剰反応する必要もないだろう。

1960年代のように日米関係が大きく揺れたときは、エドウィン・ライシャワー大使(1961~66年)のような「日本通」の存在が不可欠であったかもしれない。しかし、現在の日米関係はかなりの程度制度化し、成熟している。日米間の重要な政策的課題は高度に専門化した議論であり、両国の専門家が日々接触している。また、日米同盟、普天間基地移転問題、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)などの重要課題は、ホワイトハウスが主導権を握る案件でもあり、駐日大使は要所要所でシンボリックなメッセージを発する役割に限定されるであろう。

ケネディ大使を積極的に「活用」する姿勢で

むしろ、日本としては、ケネディ大使の存在をいかに活用するかという意識に切り換えていく必要があろう。ケネディ大使が着任すれば、米メディアは間違いなく彼女の仕事ぶりに大きな関心を寄せることになる。米国における日本への関心の低下が指摘されて久しいが、これを好機と捉え、日米関係の緊密さと重要性を象徴的に体現する存在として、日本としてもケネディ大使を積極的に受け入れ、彼女を通じて日本をアピールするくらいの気持ちをもつことが必要になってくる。

ケネディ大使は、初の女性大使として、日本の若い女性に積極的に語りかけていくだろう。ひょっとすると、若い日本女性にとってのロールモデルというこれまでの駐日大使では考えられなかったような役割が、ケネディ大使の最大のレガシーになるかもしれない。

(2013年7月29日記、写真提供=ロイター/アフロ)

(※1) ^ 千々和泰明『大使たちの戦後日米関係』(ミネルヴァ書房、2012年)、130-135頁。

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