Twitterアカウント “@Japan” を守ったスペイン人
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日本のTwitterアカウント“@Japan”を守ったスペイン人がいる。ハビエル・カスターニョ(Javier Castano、@Xabel)さんだ。10数年前からスペイン南部のマラガに住み、靴磨きをしている。なぜ彼が、日本のアカウントを守ったのか?
“@Japan”を日本政府に譲った男
彼は、ツイッター草創期に、数多くの貴重な地方自治体名や政府関連のTwitterアカウントを登録して確保し、それらを有効かつ適切に活用してくれる人にのみ無償で受け渡してきた。最近、“@Japan”のアカウントを日本政府に委譲したばかりだ。ソーシャル・ネットワークのブランディング専門家としても知られるカスターニョさんに、ニッポンドットコム編集局は、“粋な計らい”の話を聞いた。
——少なくとも、ここ3年間、あなたは多くの政府機関にアカウントを委譲しています。どのようにこの活動を始めたのですか?
ハビエル・カスターニョ 私は、多くの人と同様、2007年にTwitterアカウントを使い始めました。このSNSの構造は大変シンプルで、ユーザーとフォロワーの関係は、自治体と住民の関係に似ていると思ったのです。そこで、Twitterは、地域の活動などに有効利用できるとひらめいたのです。
多くの有名な地名が未登録だった
カスターニョ 数多くの地名を調べたところ、驚いたことに“パリ(Paris)”、“バルセロナ(Barcelona)”、 “ロンドン(London)”、”ニューヨーク(New York)” 以外のほとんどの地名は、まだ登録されていなかったのです。
まず、自分の生まれた街、“アストゥリアス(Asturias)”の“ミエレス(Mieres)”を皮切りに、“オビエド(Oviedo)”, “ヒホン(Gijon)”, “アストゥリアス(Asturias)”などの街を登録しました。次に“マドリッド(Madrid)”と共に、“マラガ(Malaga)”、“アンダルシア(Andalusia)”を登録しました。
ほとんどの自治体はまだ登録されていなくて、“カナダ(Canada)”や“リオデジャネイロ(Rio de Janeiro)”のような“グローバル・ブランド”―できれば多言語で同様の発音のアカウントも、調べておいたほうがいいと思ったのです。そしてある日、“ローマ(Roma)” と“日本(Japan)” にまだ手がつけられていないことに気づき、登録したのです。
政府機関がTwitterを使い出したのは2011年
——2年後、2009年の冬に、Twitterは飛躍的に伸びましたね。
カスターニョ そうです。そこで、そろそろ在スペインの各国大使館に連絡を取ったほうが良いと思いました。しかし、ほとんどの政府機関は、Twitterが何かすらよくわからず、最初の試みはあまり上手くいきませんでした。これらの政府機関がTwitterを使いはじめたのは、さらに2年後の2011年で、その後は、ずっとコンタクトをとりやすくなり、話も通じるようになりました。
それでも、私の提案を真剣に受け止めてもらうのは実は驚くほど難しかったのです。ソーシャルネットワークの専門家、マティアス・ルフケンス(Matthias Lüfkens)さんのおかげで、やっと、官邸の内閣官房副長官、広報グローバル・コミュニケーション担当の四方敬之(現・外務省人事課長)さんに連絡を取ることができました。2012年の終わりに四方さんが官邸を去り、ロンドンの日本大使館に転勤するまで、私たちのやり取りは続きました。
——日本政府は、“@Japan”のアカウントを2015年3月10日に譲り受けました。アカウント移行をどのようにやったのですか?
カスターニョ 偶然の賜物です。実は、四方さんとはすでに連絡を取り、現在の政府広報室の曽根健孝さんにつないでくれることになっていたのです。また、一方で、スペインの日本大使館にもメールを送りTwitter担当者について尋ねていました。そして、ある朝、曽根さんが、私のアカウント“@Xabel”と“@Japan”をTwitterでフォローしているのに気づいたのです。仕事から家に帰ると、日本大使館からのメールで、曽根さんこそがアカウントを委譲するにふさわしい人だ、と言ってきたのです。
そこで、曾根さんに“@Japan”のパスワード、アカウントの登録用メールアドレス変更と認証プロセスのインストラクションを一緒に送りました。Twitterは、すぐにアカウントを認証しましたが、日本政府は、一連のプロセスをかなり警戒していたようです。
政府機関に渡すことに厳しい批判も
——あなたの先駆的な行動が、商業に利用されそうだったアカウントを救ったわけですね。
カスターニョ 私は、これらのアカウントが、無防備で保護されていないことに気づきました。ブランディングに対する思いが強かったので、これらのアカウントが、不本意な使われ方をしたら残念だと思っていました。でも、最近は、利用したいと思っている人々から、こうしたアカウントを政府機関に手渡すことにさえ、かなりの批判を浴びてしまいます。
例えば、私は、“@Sweden”のファンです。毎週、入れ替わり立ち代り、異なった広報官が、自由に自国についてつぶやいています。みんなが、民間人として同じように利用したいと思い、私の持っているアカウントを欲しがります。そして、私が、政府関係者以外にはアカウントを譲らないとわかると、侮辱さえするのです。でも、最近は状況が変わってきました。アカウントを譲渡した国の政府関係者のみならず、それらの国の人々からも喜ばれ、感謝されます。
“@Japan”は、強力な海外発信ツール
——“@Japan”のアカウントには、どのようにあって欲しいと思いますか?
カスターニョ 私は、これらの地名が、商業的に利用されるのが嫌なのです。国名のアカウントは、国のイメージについてつぶやくからです。例えば、“@Canada”は、似た名前のフランス語バージョンのアカウントと比較すると、フォロワーはずっと多く、その影響力は一目瞭然です。
他のユーザーも地名登録するときには、住民とシェアするなり、適切な機関に委譲することを念頭において欲しいと思います。Twitterも、地名のブランド権について熟考すべきだし、企業ブランドのように保護するべきだと思います。“@Colombia”が、アカウントの権利をめぐり争った挙句、使用停止に陥るようなことは残念ですから。
個人的には、“@Sweden”や、“@Canada”のように、世界に向けて発信して欲しいと思っています。もしくは、地元に目を向け、住民に役立つような役割を果たすように。また、“@Japan”が、良質の写真で日本を紹介し、日本ブランドの海外発信強化につながれば素晴らしいと思います。上手く管理すれば“Japan”をTwitterでサーチするとトップに現れるようになり、Googleや、他のサーチエンジンにおいても優位に立てると思います。
私の役割は、アカウントの譲渡までです。その後は、日本の皆様がどのようにしていきたいか決めるべきです。敢えて言えば、アカウントが無責任に扱われるのは見たくないですけれどもね。上手くいっているのを見るのは嬉しいものです。
靴磨きをしている理由
——ソーシャルメディアの活動とともに、カスターニョさんは、靴磨きで注目を浴びていますね。
カスターニョ 靴磨き職人として働いて3年になります。その前は、昔の製図工でした。何年も製図工をしてきましたが、コンピューターの到来で、この分野では多くの人が失業し、私自身も他の仕事を探すことを余儀なくされました。建築、木材産業、グラフィックデザイン、ウェブ・ポジショニング、オンライン・マーケティングなどをしました。しかし、3年前のスペイン経済危機で、失業したのです。今までずっと自営業だったので失業保険も、何の補償もなく、さすがに貯蓄が底をつき、心穏やかではいられなくなったのです。
靴磨きは、いい考えでした。子供のとき、大人になったら何になりたい?と聞かれる度に「靴磨き職人」と答えていました。父の靴を磨く仕事と彼の持っている道具を興味深く見ていました。ある日、失業して失意のうちにマラガの港町を散歩していると、街全体が工事のせいで薄汚れていることに気づきました。みんなの靴がほこりまみれだったのです。その様子をみて、靴磨きで小遣い稼ぎができるかもしれないと思ったのです。
今、マラガでは、路上での靴磨きは禁止されているので、伝統的な方法と異なったやり方を試みています。カフェ・セントラルに行って、室内で靴磨きをやらせてくれないかと頼んだところ、彼らは喜んで受け入れてくれ、今では、月曜日から金曜日まで朝8時から午後3時まで靴を磨いて3年になります。夜は、自分の専門の勉強に時間を割き、経済危機が収まり、またオフィスで働くことができる日を待ち望んでいます。
最近では、多くの機関のブランドイメージに着目し、この分野について多くを学んでいます。新規ビジネスの起業には財力が必要ですが、現在はまだ十分に準備できていません。靴磨きは、あまり儲かりませんから。ときには、家賃の支払いに苦慮するほどです。
しかし、ソーシャルネットワーク関連の活動と数々の政府機関のおかげで、コンタクト先も増え、自身の存在感を高めることができました。早い時期に、何か、良い機会につながるといいと思っています。
(2015年3月21日に行ったスペイン語での電話インタビューに基づく)
バナー写真:カフェ・セントラルで靴磨きをするカスターニョさん ©アルバロ・カブレラ (Álvaro Cabrera)