消費税率引き上げが日本経済に及ぼす影響

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消費税率の引き上げをめぐって、熱い論戦が続いている。消費税率を引き上げることに反対する人たちは次のような論議を提起している。

(1)経済が弱っている今の時点で消費税を引き上げたら、景気が失速してしまう。

(2)消費税率を上げる前に、財政の無駄をもっと徹底的に見直さなければ、国民の納得は得られない。政府が抱えている膨大な埋蔵金もさらに積極的に活用する必要がある。政府債務を過大評価して消費税増税を求めるのはおかしい。

(3)デフレの中で消費税を引き上げても財政は良くならない。それよりもまずデフレを解消することが重要で、そのためには日本銀行により踏み込んだ金融政策を求めたい。それで財政状況もずいぶん良くなるはずだ。

(4)消費税を5ポイント程度引き上げたとしても、高齢化の中での社会保障財源には焼け石に水である。

それぞれの論議がまったく間違っているとは言わない。しかし、消費税引き上げを先延ばしする根拠としては非常に弱いものに思える。増税は国民にとって嬉しいものではない。そうした国民感情を考えて増税を避けようとすれば、将来に禍根を残すことになる。

市場は財政健全化の意思と能力を見ている

たしかに、消費税率を5ポイント上げたからといって、財政問題の根本的な解決になるわけではない。しかし、高齢化の中での社会保障改革や税改正は、日本がこれから何十年にわたって取り組まなければならない課題である。当面の消費税引き上げはその一里塚にすぎない。しかし、その一里塚も築くことができないようでは話にならない。

消費税の引き上げが政治的に困難であると判断したとき、市場はどう動くのだろうか。市場は目先の財政状況を見るというよりも、日本が財政健全化を実現する意思と能力を持っているかどうかを見ている。当面の消費税の引き上げの可否が、日本の財政健全化の意思と能力を判断する材料となっているのだ。

インフレや無駄見直しで問題は解決しない

消費税増税という苦い薬を飲むのを避けたい政治は、より楽な道を歩もうとする。日銀に大量の資金を供給してもらって、穏やかなインフレを起こすことができたら、財政運営はずいぶん楽になるのではないか。そう考える政治家がいてもおかしくない。残念ながら、財政問題に打ち出の小づちはない。日銀が簡単にインフレを起こせるとも思えないし、金融政策に過度な圧力をかけることはさまざまな弊害をもたらす。また、仮にインフレが起きたからといって、高齢化で財政負担が増えていく日本の財政が見違えるように良くなるということはありえない。

歳出の健全化や埋蔵金の活用が先で、消費税の増税はその後だという議論は、財政の無駄を見直して新たな歳出の財源にすると主張していた民主党が消費税率の引き上げを目指すようになったからには、今更という気がする。財政の無駄を見直すことは重要だ。しかし、それを消費税引き上げの延期の言い訳にしてはいけない。

景気への深刻な影響は当面考えにくい

景気が良くなるまで消費税は上げない、という議論もずっと繰り返されてきた。それでは永遠に消費税引き上げはできない。今の財政状況を放置すれば、経済はさらに悪くなる。消費税を引き上げるといっても、来年から引き上げるわけではない。また、2段階に分けて引き上げていく。これから数年は、消費税引き上げ前の駆け込み需要も期待できる。当面は、消費増税が景気に深刻な影響を及ぼすとは考えにくい。

そして何よりも重要なことは、消費税の増税は目先の政策というよりは、長期の経済設計に関わることなのだ。消費税率が5%の日本よりも、25%前後のスウェーデンやデンマークの方が、経済がはるかに活性化しており、1人当たりの所得が高い。消費税を上げるほど経済状況が悪くなるというのは、少なくとも中長期では正しくない。

消費税/付加価値税率(標準税率)の国際比較

日本 5%
カナダ 5%(※1)
米国・ニューヨーク市 8.875%(※2)
韓国 10%
インドネシア 10%
オーストラリア 10%
メキシコ 16%
中国 17%
トルコ 18%
ドイツ 19%
フランス 19.6%
英国 20%
イタリア 20%
スウェーデン 25%
デンマーク 25%

出所:財務省ウェブサイト「付加価値税率(標準税率)の国際比較」(2011年1月)からG20参加国とスウェーデン、デンマークを抜粋

(2012年5月10日 記)

(※1) ^ カナダでは、連邦の財貨・サービス税の他に、ほとんどの州で州ごとの付加価値税などが課される。(例:オンタリオ州8%)

(※2) ^ ニューヨーク州とニューヨーク市の税率の合計。米国では、州、郡、市によって小売売上税が課される。

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