住宅探訪(1)季節が通り抜ける家
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東京・世田谷にあるこの家は、建築家の加茂紀和子とマニュエル・タルディッツが自分たちの住居として建てたものである。コンクリートを用いて自然とどのような関係を生み出せるか、という試みになっている。敷地に対して、やや中心をずらして建物を配置したことで、周囲に複数の「坪庭」をもつ形状となった。
それぞれの庭には異なる種類の草木を植えて特徴を出している。部屋の窓を額縁に見立てて、作品のように庭を眺めることができる。庭の外に遠く広がる眺めが「借景」に使われているのは、いわば伝統的な日本庭園と同じ手法だ。風景、光、鳥や虫の声、草花の匂いなど、すべてを取り込みながら、家が周りの環境に溶け込んでいる。春から秋にかけて、家全体が大きく開け放たれ、折々に咲く花々の香りでたえず満たされる。
壁は打ちっぱなしのコンクリートで、外装も簡素。断熱材を使用していないのだが、エアコンは設置されておらず、最小限の暖房器具だけで冬を過ごす。ここでは、季節が住居を通り抜けていく。住人はパッシブな方法だけで天候に対処する。すなわち、空気の自然な循環や、木々の作り出す陰を利用し、着る服によって調節するのだ。
半階のフロアが連続するように設計されており、下の共有スペースから上のプライベートな空間までが、自然な流れでつながっている。各寝室は本棚だけで仕切られていて、両親には何の問題もないのだが、年頃になった2人の子どもにはやや受け入れがたくなってきたのかもしれない。
コンクリートでできた繭(まゆ)、とでも言えそうなこの家に住み始めて、マニュエルはすっかり出不精になってしまったという。ダイニング・テーブルの席に腰かけて、時間とともに変化する木漏れ日を楽しみながら仕事をして1日を過ごすのがお気に入りだ。
動画:カタ邸
© Jérémie Souteyrat
撮影=ジェレミ・ステラ(2013年)© Jérémie Souteyrat
文=ヴェロニク・ウルス/ファビアン・モデュイ(原文フランス語)
バナー写真=カタ邸(設計:加茂紀和子+マニュエル・タルディッツ、2007年)のキッチン