商店街から世界へ! 高円寺「キタコレビル」
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日本ファッションの発信源は、原宿や渋谷だけじゃない。
世界中のファッション通が注目する「キタコレビル」——そのビルは新宿から中央線で約6分、若者に人気の街・高円寺の庶民的な商店街の中にある。
大きな手書きの文字がその名を主張してはいるが、パッと見ではどこからどこまでがキタコレビルなのかは判別不可能な2階建てのビル。増築を重ねたような不思議なフォルムをしており、その一角にはスナックの看板も。アジトのような不思議空間に戸惑いつつも、1階正面に店を構える『はやとちり』のオーナー・後藤慶光さんにキタコレビルのあらましを尋ねてみた。
店も商品も“リメイク大好き”!
「今のところ、うちの他にアパレルは『サウスポー』、『GARTER』、『シークレットDog』、『ilil』の4店舗が入店しています。一見バラバラの建物のようだけど、壁一枚隔てているだけで実は全部つながっているんですよ」。(後藤氏)
もともと高円寺の古着屋で働いていた後藤氏。ギャラリーとして使われていたこの物件を見つけ、自ら内装を手掛けて店をオープンしたのが3年前。戦前に建てられたという建物はかなり老朽化していたが、逆にそれが魅力に映ったという。
「古いからなんでもやっていいと大家さんが言ってくれたので、自分の好きな空間が作りやすかったんです。壁を壊してもいい物件なんて、他にあまりないですよね(笑)」
ショップで販売している商品もリメイクアイテムが中心というだけあって、物づくりは得意とするところ。床をピンクに塗り、壁には古本屋の100円均一コーナーで購入したマンガを分解して貼り付けた。そんな奇抜な発想は、内装だけに限らない。店内にはアルファベットのビニールマットをつなげて作ったジャケットを始め、突き抜けたリメイクアイテムが並ぶ。
他にも、知人の作家によるオブジェやキッチュな雑貨など個性的なアイテムがズラリ。キタコレビル全体が醸し出す独特の雰囲気は、フロントマンである『はやとちり』が持つ雑多でにぎやかな空気によるところが大きい。
個性的なテナント同士が刺激し合う
その後、後藤さんが友人たちに声をかけ『サウスポー』(旧『NINCOMPOOP COMPACITY』)、『GARTER』、『シークレットDog』が続々とキタコレビルに入店。2011年3月にはそれまで週末のみの営業だった『ilil』が毎日オープンするようになり、現在の形となった。
しかし改装以前は、『サウスポー』のスペースは宅配カレー店、『ilil』はお風呂場、『GARTER』と『シークレットDog』に至ってはゴミ置き場で、店どころか人が出入りできる状態ですらなかったという。
それでも各ショップオーナーがキタコレビルにこだわった理由は、家賃の安さもさることながら、改装OKという自由度の高さにあるという。
「建物自体も入居している店も、未完成なところが最大の魅力。今でも店の内装に少しずつ手を加えて、変化し続けているんです」(『シークレットDog』オーナー・海さん)
それぞれの手で仕上げられた内装は店舗によって全く異なる。だが、それが店の個性と存在感を際立たせている。キッチュでユニークな『はやとちり』に対し、真っ白な空間に鏡をちりばめた『GARTER』はスタイリッシュな印象。モノトーンでエッジを効かせた『シークレットDog』に、カラフルでポップな『ilil』。左利きの脳内をイメージしているという『サウスポー』は、やや毒気のあるファンシーな世界が広がる。商品のラインナップもさまざまだが、すべての店舗に共通しているのが古着のリメイクアイテムを制作している点だ。
「お店によって、リメイクも全く違うテイストになるのが面白いですよね。キタコレには他にはないものがいろいろ揃っているから、訪れるお客さんも楽しめるはず」(『サウスポー』店長・キャシーさん)
「みんな自分の好きなものを追及していて、とにかくパワフル。他のお店の作品に刺激をうけることもしょっちゅうです。なんでもアリな空気で、一番作りたいものを作っていこうと思えるのが嬉しい!」(『ilil』オーナー・レイチェルさん)
レディー・ガガも愛用
さまざまな個性が渾然一体となったキタコレビル。これだけ独自のスタンスを追及することができるのは、高円寺という場所によるところも大きいと後藤さんは語る。
「高円寺って、流行に左右されない街なんです。個人店が中心なので、アクが強くて面白いショップが多いんですよ。それに、渋谷や原宿に比べてのんびりとしていて、近所の人がフラッと立ち寄れるユルさも魅力ですね」
地元とのつながりから生まれるものも多いという。『はやとちり』が高円寺を中心に活躍するバンド「どついたるねん」に衣装を提供したり、杉並区役所が開催した古着のファッションショーにキタコレビルとして参加。毎年秋に開催される高円寺フェスではオリジナルグッズも作成している。
海外からもその豊かな個性は注目されている。昨年3月には、キタコレビルに影響を受けたというオーストラリアのブランド『DI$COUNT』とロンドンのショップ『PRIMITIVE』とコラボレーションした、リメイクアイテムの展示会『THREE』を開催。また、ファッションデザイナーのジェレミー・スコットや、自らのアパレルブランドも持つアーティストのファレル・ウィリアムスは来日時にキタコレビルを訪れ、ショッピングを楽しんだ。今や全世界のファッションアイコンであるレディー・ガガが、『GARTER』や『シークレットDog』のアイテムを着用したこともある。
今や、このユニークなキタコレビルは高円寺だけの局地的ファッションにとどまらず、その世界を大きく広げようとしている。国内各地から出張店舗のオファーが舞い込み、海外媒体からの取材も続く。海外での次なる展示会も視野に入れているという。
「2011年に日本とドイツの国交150周年を迎えたので、ベルリンで展示会を開きたいと思っています」(『GARTER』オーナー・江幡晃四郎さん)
より新鮮で、より面白いものを――マイペースなようで実はアグレッシブ、アグレッシブなようでやっぱりマイペースな高円寺キタコレビル。渋谷や原宿の大型ファッションビルがファストファッション・ブランドで埋まり没個性化が進む中、地域に根を貼りながら独自性を持つローカル・ショップが、日本ファッション界の救世主になるのかもしれない。
取材・文=真島 絵麻里撮影=染瀬 直人