焦点:イラン新大統領にライシ師、近づく次の最高指導者の地位

6月18日に行われたイラン大統領選で予想通りにイブラヒム・ライシ司法府代表(写真)が当選したのは、同国の最高指導部に対してライシ師が猛烈な忠誠を示す行動を取ってきた結果と言える。テヘランで撮影(2021年 ロイター/Majid Asgaripour/WANA)
6月18日に行われたイラン大統領選で予想通りにイブラヒム・ライシ司法府代表(写真)が当選したのは、同国の最高指導部に対してライシ師が猛烈な忠誠を示す行動を取ってきた結果と言える。テヘランで撮影(2021年 ロイター/Majid Asgaripour/WANA)

[ドバイ 20日 ロイター] - 18日に行われたイラン大統領選で予想通りにイブラヒム・ライシ司法府代表が当選したのは、同国の最高指導部に対してライシ師が猛烈な忠誠を示す行動を取ってきた結果と言える。

今回の大統領選は、ライシ師のような反米保守強硬派以外の候補者をほぼ排除する形で実施された。60歳のライシ師にとって大統領選の勝利は、これまで擁護されてきた最高指導者・ハメネイ師の後を継ぐ確率が高まることを意味する、というのが専門家の見方だ。

ライシ師は、ハメネイ師が2019年に司法府代表に登用。この年には1979年のイスラム革命以降で最大規模の反政府デモが発生し、これを抑え込むために当局が裁判所を利用した。そうした司法制度を統括する立場にあったのがライシ師だ。イランはあくまで、司法は独立していて政治的な利害に影響されないと主張している。

ライシ師は1980年代の大規模な反体制派処刑に携わったとされ、重大な人権侵害への関与も指摘されている。

ニューヨークに拠点を置く人権団体、センター・フォー・ヒューマンライツ・イン・イラン(CHIR)のエグゼクティブディレクター、ハディ・ガエミ氏は、ライシ師について「国家の政策を批判する勇気を持つ人々を投獄し、拷問し、殺害するシステムの中心に位置する人物の1人だ」と述べた。一方、イランは囚人への拷問を否定している。

イスラム教シーア派法学者のライシ師は、公務の面ではほぼ一貫して司法畑を歩み、司法府副代表を10年経験した後、2014年には検事総長に任命された。

そのライシ師は1988年、投獄されていた政治犯数千人の死刑執行を監督した委員会を構成する4人の裁判官の1人であり、強硬な体制維持派として一躍有名になった。アムネスティ・インターナショナルは2018年に公表した報告書で、当時の処刑者が約5000人に達したとした上で、実数はもっと多くなる可能性があるとの見方を示した。

<持ちつ持たれつ>

CHIRによると、この委員会のイラン・イスラム共和国に対する「忠誠」を誓う決意に基づき、処刑者は無名のまま共同墓地に埋葬された。これらの政治犯は既に裁判を受け、申し渡された判決に沿って服役していた人々だった。イランは、大量処刑を認めていない。

ただ、一部の聖職者は、投獄された政治犯たちの裁判は公正で、関係した裁判官は革命初期の武装反対派を除去したことで報いられるべきだと述べていた。ライシ師自身は、この問題にどのような役割を果たしたのか、今まで一度も公式に発言してこなかった。

昨年には国連の人権専門家が、1988年の大量処刑の事実を明らかにするよう求め、イラン政府が関与したことを拒否し続けるなら、これは人道に対する犯罪という域にまで達するかもしれないと警鐘を鳴らした。

米国は2019年、ライシ師に対して1988年の大量処刑や2009年の騒乱弾圧に関する人権侵害を理由に、個人制裁を科している。

2017年の大統領選で穏健派のロウハニ氏に敗れたライシ師は今回の選挙戦で、詳しい政治・経済政策は一切提示してこなかったが、低所得層の歓心を得るため、失業を減らすことを公約に掲げた。

一方で、米国による制裁解除に向けて「一刻も無駄にしない」と表明し、2015年の核合意再建を巡る協議は支援する姿勢を示唆している。

いずれにしてもライシ師の大統領就任で、イラン国内におけるハメネイ師の権力基盤はさらに強化され、人権活動家らは圧政に拍車がかかるのではないかと懸念する。

トニー・ブレア・グローバル・チェンジ研究所でイラン・イスラム過激主義を専門とするカスラ・アーラビ氏は「ライシ師は勝ち目がなければ、はなから候補者として登録しなかっただろう。ライシ師が候補登録を決めた背景に、ハメネイ師の『引き』があったのはほぼ間違いない」と話した。

<衣鉢を継ぐ人物>

大統領選は候補者審査段階で、有力な穏健派候補が次々に拒絶された。このため有権者の選択肢は保守強硬派か、まだ存在感の乏しい穏健派の候補に限定された。その結果、投票率は過去最低を記録し、経済的な困窮や個人の自由制限に対する国民のやり場のない怒りを映し出した。

NGOの国際危機グループのシニアアドバイザー、アリ・バエズ氏は、大統領候補を審査した「護憲評議会」によって選挙にサプライズが生じる余地が完全に消されたと指摘する。

イランでは、ハメネイ師が革命の立役者・ホメイニ師の下で大統領を2期務めた後、1989年にホメイニ師が死去すると最高指導者を引き継いだ。つまりライシ師は大統領に就任することで、ハメネイ師の次の最高指導者となる可能性が高まる。

チャタムハウス(英王立問題国際研究所)の中東・北アフリカプログラム副ディレクター、サナム・バキル氏は「ライシ師は、ハメネイ師が信頼する人物だ。ハメネイ師の衣鉢を継いでくれるという意味で」と指摘した。

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