温暖化は日本狙い撃ち? 猛暑・豪雨が普通の時代、「四季から二季へ」

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異常気象が続き、猛暑や豪雨が毎年繰り返されている。2024年の日本は前年の史上最高気温の記録をあっさり破り、春、夏、秋と3季連続で統計開始以来の最高記録を更新した。地球温暖化で日本周辺は世界でも有数の気温上昇エリアだ。このまま二酸化炭素を排出し続けて温暖化が進めば、猛暑はニューノーマルとなり、日本の四季は「二季」となる可能性さえある。

猛暑による災害は、CO2増加による「人災」

清少納言が生きていたら、枕草子に「春はあけぼの」と書くことはできないかもしれない。日本の気候は近年、レジームシフト(根本的な構造変化)が起こり、長い夏と冬だけの「二季」になる可能性が出ているからだ。レジームシフト後では二酸化炭素(CO2)を減らしても簡単には元の気候に戻らない。二酸化炭素削減は待った無しなのだ。

日本では熱中症で毎年千人規模の命が失われている。風水害による年平均死亡者の約10倍だ。しかも「猛暑災害」は「人災」でもある。一因がCO2増加による地球温暖化だからである。

ここ数年、観測史上の記録を塗り替える気象現象が続く日本(PIXTA)
ここ数年、観測史上の記録を塗り替える気象現象が続く日本(PIXTA)

「近年の異常気象の原因はCO2による温室効果ではなく、自然変動だ」という言説を信じる人が散見される。何が正しいのか、間違っているのかを判別するのは難しいかもしれないが、科学的な知見からは「温暖化は自然変動にすぎない」との主張は間違いであることは自明だ。

例えば「太陽活動の変化が猛暑の原因である」という説を唱える人がいる。太陽活動は約10年スパンで強弱を繰り返す。従って10年に1回程度の気象現象は太陽活動が原因の場合もある。しかしここ数年は、観測史上の「最高」や「最大」となる現象が続いており、周期現象ではない。温室効果ガスの増加による変化が、太陽の周期現象を超えているため史上最高気温が記録され続けているのだ。

北極の氷解と偏西風蛇行が日本に影響

地獄のような猛暑が日本を狙い撃ちする理由は2つある。大気と海洋の異常だ。まず大気から説明しよう。

温室効果により、北極の海氷が急速に溶けている。北極は雪と氷に覆われた白い世界だ。白い部分は太陽光を反射し、温度の上昇を防いでくれる。しかし、温暖化で海氷が溶けて白い部分が減ることで太陽光を反射しにくくなり、他のエリアに比べ温暖化が加速している。この連鎖を北極温暖化加速と呼ぶ。

北極は日本から遠く離れている。いかに深刻な状況とはいえ、なぜ日本の気候まで大きく変えてしまうのか。

大きな要因は、日本やヨーロッパの中緯度上空に吹く偏西風の蛇行だ。偏西風の北には寒気が、南には暖気がある。偏西風を境に南北で気温が大きく異なり、北は寒く、南は暑い。近年、偏西風が激しく蛇行する傾向があり、北に出っ張ったところにちょうど日本が位置している。

従来の偏西風と現在の偏西風

そこに高気圧がとどまり、周辺が暑くなっている。偏西風が北に凸の場所は時計回りに風が吹く。高気圧は時計回りの渦であるため北に蛇行した地域は高気圧に覆われる。

蛇行が激しくなったのは2010年ごろのことだ。かつてはこのような激しい蛇行はあまりなかった。

偏西風は川と同じように、流れが速いと真っすぐ、遅いと蛇行する。偏西風は南北の温度差が大きければ速く、小さければ遅くなる。近年、偏西風の蛇行が激しくなったのは、北極と赤道の温度差が北極の温暖化によって縮まり、偏西風が遅い流れになってきたからだ。北極の急激な温暖化の影響が偏西風を通して日本に及んでいるというわけだ。

偏西風の蛇行が風に乗って東に移動していけば、異常気象は短期間で終わる。しかしやっかいなことに、蛇行した偏西風のうねりは見かけ上、同じ場所にとどまる傾向がある。激しく蛇行した「波」の進む方向は地球の自転によって西方向なのだが、偏西風は東向きなので、双方の動きが打ち消し合うのだ。

「日本付近で南向きに凹型で蛇行すれば,夏に寒気が来るのでは?」と思う人もいるだろう。夏、大陸から吹く偏西風が日本付近で北に曲がるのは、陸の気温が上がりやすく、海は低温だからだ。ユーラシア大陸東部は海よりも暑く、西から日本に来る気流は気温が高い。暑い空気に日本が覆われると、偏西風はこの暖気を迂回(うかい)するように日本付近で北に曲がる。

日本はもともと猛暑に狙い撃ちされやすい場所なのだが、その傾向がさらに強まっていると言えるのだ。

高温海水も日本周辺で大発生

海も日本を狙い撃っている。温暖化で世界中の海水温が急上昇しているが、その中で日本近海は有数の上昇を見せているのだ。水温はもともと変化しにくく、海面の温度は秋めいてきても下がらない。海風は涼しいはずだが、秋なのに高温で湿って体感的にも暑い。

世界の海水温の平年差。黒、赤、黄の順に平年より気温が高い。青色は平年より低いエリア(2024年9月中旬、NOAAのwebから引用)
世界の海水温の平年差。黒、赤、黄の順に平年より気温が高い。青色は平年より低いエリア(2024年9月中旬、NOAAのwebから引用)

南から太平洋側を北上する温かい海流・黒潮も今、大きく変化している。フィリピン沖から南西諸島、高知沖、紀伊半島沖を通って、太平洋側に東に抜けるのが従来のルートだったが、今は高知沖で南に蛇行してから再び北上し、静岡県辺りで日本にぶつかる。そして千葉県の付近、東北の海岸に沿って北上し、岩手県から北海道のすぐ南辺りまで進む。

海面水温からわかる海流

岩手や北海道南岸まで北上する黒潮は観測開始以来の変化だ。しかもそれが2年以上続いている。東北や北海道周辺の海面水温は平年よりも5度以上高い。海面の温度は平年より2度高くても異常なので、今はかなりの異常事態だ。

私は「スーパージャイアント黒潮蛇行」と名付けても良いほどの状況だと説明している。黒潮から分かれて流れる対馬暖流が流入する日本海も高温で、日本は異常高温の海にサンドイッチのように挟まれている。だから夏の猛暑と秋の残暑が厳しいのだ。

異常高温の海水が豪雨に拍車

能登半島豪雨をはじめ、日本では未曽有の豪雨が頻発している。その理由は海洋の温暖化だ。海水温上昇が、水蒸気の極端な増加を起こして雲のパワーが増し、豪雨をもたらす。2024年秋のスペイン豪雨の原因も、スペインの南、地中海の水温の異常高温だ。

日本各地を襲う豪雨災害(PIXTA)
日本各地を襲う豪雨災害(PIXTA)

水温が高い一因は、温暖化に伴う猛暑。猛暑は豪雨へと連鎖する。だから日本のどこでも未曽有の豪雨が起こりうる。能登半島豪雨を「自然災害」として哀れむのは偽善だろう。人類は雨量増加に加担した「共犯」と言っても過言ではない。これらの「災害」を防ぐにはどうすればいいか。答えは自明。二酸化炭素を減らすことだ。

冬の豪雪も温暖化が原因

「冬に寒波や豪雪が起きている」と温暖化を否定しようとする人もいる。確かに近年、高速道路や主要国道の交通がまひしたり、家屋に大きな被害が及んだりするほどの豪雪が頻発している。実は日本では大雪で命を落とす人の数は、風水害よりも多くなっている。だが、これも暖冬傾向の気象状態によって、強烈寒波やドカ雪が発生しやすくなっている。

道路脇に壁のように積もった雪(PIXTA)
道路脇に壁のように積もった雪(PIXTA)

豪雪の主因も激しくなった偏西風の蛇行にある。ただしそのパターンは夏の反対。近年の冬は中国~日本付近と北米で偏西風が南へ垂れ下がり、この蛇行が激しさを増すと、北極の寒気がユーラシア大陸と北米大陸へと分裂し、そのうちの一つが日本周辺まで大移動する。北極全体の寒気は弱まっているが、分裂した寒気は偏西風の蛇行で南下しやすくなっている。寒気は暖水の方向に進む性質があり、日本付近に来やすくなる。冬に北極寒気と暖水がぶつかる場所、それが日本なのだ。

冬の大寒波 原因は北極圏の寒気の大移動

反対の性質のものが引きつけ合うのは、プラスの電荷とマイナスの電荷や、磁石のN極とS極などの自然界の原理と同じ。このような激しい偏西風蛇行の一因が、前述した北極海氷の激減なのだ。

アラスカ沖の北極海氷の激減で、アラスカ上空の大気は異常に暖かくなり、偏西風は暖かい海を避けるように北に迂回(うかい)する。その反動で北極寒気を東西に引き裂くように偏西風が南北へ蛇行。北極上空の寒気は東アジアと北米に分裂する。

日本付近の海水は異常高温で、冬でも水蒸気が大量に発生。大陸からの強烈な寒気は暖かい日本海で水蒸気を大量に吸収し強力な雪雲に成長。日本で豪雪のリスクが増えるのだ。

冬に日本海で発達する雪雲(JPCZ)、「線状降雪帯」の模式図。対馬暖流が流れる暖かい日本海の存在が影響している(筆者作成)
冬に日本海で発達する雪雲(JPCZ)、「線状降雪帯」の模式図。対馬暖流が流れる暖かい日本海の存在が影響している(筆者作成)

一方、極寒のシベリアからの冷たい北風は朝鮮半島北部の白頭山を中心とする山脈で2つに分かれ、日本海へ抜けた後に海上で合流。暖かい日本海の水蒸気を取り込んだ結果、帯状の雪雲が発達する。これは日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)と呼ばれているが、「線状降雪帯」と呼ぶメディアもある。高海水温の一因が猛暑や温暖化だから、温暖化と豪雪は連鎖する。ひとたび雪が降ると短時間に降り積もり、報道では注意喚起を込め「雪爆弾」と呼ぶこともある。

「人類は地獄の門を開けた」

日本は気象災害のデパートだ。温暖化により世界で最も激しい影響を受けている国の一つだ。だから本来は世界で一番、温暖化や異常気象と温暖化の関係に敏感な国や市民になっていなければならないはずだ。

だが、実際にはそのような機会が極めて少なく、無関心層が大部分となっているのは大きな問題だ。

昨年9月に米ニューヨークで開かれた気候変動対策についての「気候野心サミット」で、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は「人類は地獄の門を開けてしまった」と異常気象に強い危機感を示した。私はよく、最近の気候について「世界はアナザーワールド(別次元の世界)の入り口に来ている」と話している。アナザーワールドとは、例えば、夏の気温40度が当たり前になるような世界だ。

国連気候野心サミットに出席したグテーレス国連事務総長=2023年9月20日(時事)
国連気候野心サミットに出席したグテーレス国連事務総長=2023年9月20日(時事)

異常気象が普通になる世界。温暖化の深刻化によって人類や地球が後戻りできない変化を起こす境目を「ティッピングポイント(転換点)」と呼ぶ。今はギリギリの崖っぷちだ。

その境目は、100年前と比べた海面水温の上昇が1.5度となる時だと私は考えている。海は本来なら夏の暑さを和らげ、温室効果ガスを吸収する。ところが現在は海面水温が高いために陸地を冷ます効果は薄れ、温室効果ガスも吸収しづらくなっている。海は水なので、熱容量が圧倒的に大きいことが重要なのだ。実は2023年の海面水温の上昇は1.4度を超えており、本当に後が無い状態だと言える。

地球の面積の7割を占める海の温暖化は、アナザーワールドに近づく確実な要因だ。これは誇張ではない。だが、私たちはまだ引き返せる。海面水温さえ戻れば。それは、一刻の猶予もないのだ。

バナー写真:日本周辺の海面水温の平年からの差。赤色が濃いほど平年より高温になっている(2024年9月21日、気象庁Webサイトから引用)

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