大谷翔平が日本選手2人目のMVPを満票で受賞! 現地番記者が分析する大ブレイクの要因と「二刀流」へのさらなる期待値
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焦点はハイレベルな二刀流の継続
ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平投手(27)が、全米野球記者協会によるアメリカンリーグ最優秀選手(MVP)に選出された。2001年のイチロー(マリナーズ)以来、日本選手では20年ぶり2人目の快挙だ。シーズン中から当確とささやかれていた中、満場一致という文句なしの受賞。今季、投打二刀流の驚異的なパフォーマンスが、米メディアから圧倒的な支持で認められた証拠だった。
打者では9月中旬まで本塁打数トップに君臨し、シーズン終盤までタイトル争いを繰り広げた。打率2割5分7厘、46本塁打、100打点、26盗塁の結果を残し、長打力だけでなく、走力でもトップレベルの能力を発揮した。
投手では9勝2敗、防御率3.18、投球回130回 1/3 で156奪三振と、他球団の打者を圧倒した。メジャー4年目で自己ベストのシーズン。輝かしい成績を残した一方で、今後への期待はますます膨らみ、課題も明確になった。
10月26日には、大リーグ機構のロブ・マンフレッド・コミッショナーから特別表彰を受けた。日米だけでなく、世界中のファンや子どもたちに多大なインパクトを与えた二刀流の功績が、たたえられた証だった。記者会見で、米メディアから問われた。
「来年以降も、同じような活躍、同じように試合に出られるという自信はあるか」
大谷は動じなかった。
「今のところは自信は持ってますし、一番はやっぱり、出続けることで(状態や成績が)上がってくるものがあると思う。どのくらいの成績が残せるかというのは、どのくらい出られるかっていうところではあるかなと。今のところは自信は持ってます」
二刀流で1年間、シーズンを通して結果を残せることは証明した。次なる焦点は、いかに継続するか――。打者にしても、投手にしても、メジャーレベルで何シーズンも連続して好成績を維持し続けることは簡単ではない。MVPやサイ・ヤング賞投手を獲得した選手でさえ、翌年は不振に陥ることがある。
例えば、メジャー屈指の強打者ブライス・ハーパー(当時ナショナルズ)はメジャー4年目の2015年、打率3割3分、42本塁打、99打点でナ・リーグMVPに輝いたが、翌年は打率2割4分3厘で24本塁打、86打点と大幅に成績を落とした。投手では16年、レッドソックスに在籍していたリック・ポーセロが22勝4敗、防御率3.15でサイ・ヤング賞に選ばれたが、翌年は11勝17敗、防御率4.65に落ち込んだ。
一流の打者や投手でさえ、高いパフォーマンスの継続が課題となるが、大谷の場合はそれを投打の両方で求められる。今季の成功を踏まえ、ファンやメディアからの期待値はこれまで以上に高くなるはずだ。ジョー・マドン監督やペリー・ミナシアンGMは来季も二刀流の起用法に「変わりはない」との見方を示しており、投打でフル稼働した今シーズンを軸にしていく方針。来年は二刀流の“長期的継続”を占う上で、今季よりも注目すべき年となるだろう。
地道なルーティンで維持するコンディショニング
162試合のシーズンで、2年続けて二刀流で完走する――。そのためには当然、コンディション維持が不可欠となる。今シーズン最終戦の試合前、大谷は故障なく戦えた要因について「もちろん慣れの部分もあると思いますし、3年間やってきて、どういう風に1年間やればいいのかな、っていうのを知れたっていうのはすごく大きかったと思います」と語った。
右肘や左膝の手術など、大きなケガを繰り返した過去3年。アプローチを変えて臨んだ4年目で、二刀流としての過ごし方が確立された。シーズン中の試合前のルーティンは、地道な作業の繰り返しだ。
グラウンド上では投手陣や野手の全体練習には参加せず、個別に調整を続けた。ランニングで汗を流す他の投手陣とは違い、基本的には壁当てとキャッチボールの二つのメニューを黙々とこなした。打者は通常、屋外でフリー打撃を行うが、大谷は室内での打撃練習を徹底。昨年の7月30日、投打での練習時間は1時間を超えていた。一方で今年は、30分~40分程度。練習時間を削り、最低限の練習でコンディション維持に努めた。
シーズン中、繰り返し口にしていた「なるべく毎日同じことをやって、同じリズムでゲームに入りたい」というルーティン継続の意識が、二刀流でフル稼働とシーズン162試合の完走につながった。
来季以降、マイナーチェンジはあるかもしれないが、今季の調整法が基本軸となるだろう。大きな故障はなかったとはいえ、投手では規定投球回(161イニング)に到達せず、目前で二桁10勝を逃した。今後は、いかに投球イニングを増やしていくかが、課題の一つとして挙げられる。
今季はシーズン序盤、右手中指のマメの影響で初登板から約2週間、登板間隔が空いた。メジャーの先発投手は中4日もしくは中5日でローテーションを回るが、大谷は投打の出場による疲労蓄積を考慮され、中7日以上の間隔を空けられることもあった。
また、打席で受けた死球による登板回避など、打者出場が与える投手への影響もあった。強打者なだけに、来季はより一層、相手バッテリーから厳しいコースを攻められるだろう。ルーティン継続による状態管理に加え、打席でのリスク回避が、投手大谷のさらなる進化の鍵となりそうだ。
本塁打王争い脱落の要因
二刀流だからこその運命なのか、投手が打者に与える影響もある。今季、本塁打王を逃した要因の一つが、後半戦の失速だった。
オールスター前までの前半戦で33本塁打を放ち、米国以外の出身選手では1998年のサミー・ソーサ(カブス)に並んで最多タイ。驚異的なペースで本塁打を量産した。日本選手として初めてホームランダービーに出場し、オールスター戦では史上初の投打で出場。2日間の休養日を経て、再び投打でフル稼働する日々が始まった。
6月に自己最多の月間13本塁打を放ったが、7月は9本、8月は5本、9月と10月は合計4本と減っていった。本塁打の激減の一因は、あからさまな四球攻めで勝負を避けられたこともある。だが、シーズン終盤は思うように打球が上がらず、右方向へ引っ張る強引な打撃が目立っていた。後半戦から投手成績が上がっていく一方で、打者は下降線。蓄積疲労の影響も否めなかった。
規定投球回に到達し、投手で登板を重ねながらも打者で好状態をキープする。難易度はさらに上がるが、大谷の言葉からすれば、今年のシーズン完走が何より大きな糧となる。
6月中旬、ホームランダービー出場を一番乗りで表明した際、後半戦への影響を指摘する声に対し、大谷は「やってみないことには、何事も経験してみないと分からないので、と思います」と言った。結果的に好転はしなかったかもしれない。だが、それを経験し、学んだことがプラスとなった。
本塁打王争いに加わっていたこと自体も、ステップアップへの伸びしろと捉えた。本塁打王のブラディミール・ゲレーロJr.(ブルージェイズ)、サルバドール・ペレス(ロイヤルズ)らと数字を意識しながら戦った。
「単純に貴重な経験をさせてもらってるな、という印象かなと思います。そういう風にいろんな選手から刺激をもらって1年間、いいシーズンを過ごせたっていうのは選手としていい経験になったなと思ってます」
課題をクリアしたかと思えば、また新たな課題を発見し、それを克服する。まだ成長過程にいる27歳には、この先、二刀流どちらもハイレベルでの継続が求められる。
「やったことがないので、確信めいたものはもちろんないですけど、それはもうみんな同じ。野手も投手も、あとどのくらい続けられるのかなっていう予想でしかないですけど、一年一年、長く出来るようにみんな必死にトレーニングしたりとか、ケアしたりとか、そこはもう、他の選手と変わらないかなと思ってます」
帰国後の会見で来季の目標を問われ、「まあ一番は数じゃないかなと思っているので、どれぐらい試合に出られるか、どれぐらい打席に立てるか、どのぐらい登板できるか」と答えた。マドン監督は来季の大谷について、外野手も含めた“三刀流”での起用を増やしたいとも発言している。身体さえ万全なら、大谷の出場機会はさらに増えることも想定されるし、大谷自身が野球少年のごとくそれを望んでいる。
激動の一年を終え、オフを迎えた。冬を越え、また来年、さらなる進化を遂げた二刀流大谷が、メジャーの舞台に戻ってくるはずだ。
バナー写真:アストロズ戦前に行われた同時多発テロから20年目の追悼セレモニーで、星条旗を前に撮影された大谷(2021年9月11日、アメリカ・ヒューストン) AFP=時事