まんず、秋田さ来てたんせ:菅首相誕生で沸く地元の素顔
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菅さんの郷里は「秋田美人」の源流
「あきた」に続くフレーズとして「いぬ(犬)」を真っ先に思い浮かべる人は多い。マタギの狩猟犬だった秋田犬が世界の愛犬家たちの間でブレイクする前は、「美人の里」が秋田の一番の代名詞といえた。
「秋田のおなご/なんしてきれいだど/聞くだけやぼだんス/小野小町の生まれ在所/おめはん知らねのゲ」
民謡「秋田音頭」も、クレオパトラや楊貴妃とともに世界三大美人と称される小野小町を秋田美人の原型として、誇りと愛情を込めてうたっている。ブランド米の名称にもなっている平安時代の歌人の出生地は、菅氏の故郷・湯沢市と伝えられる。
一般的に秋田美人の特徴としては、①色白で肌のキメが細かい②面長で目鼻立ちがはっきりしている③口は小さい④背が高い――が挙げられる。そして、なぜ美人が多いのかについては、①秋田県は年間日照時間が日本で最も短く、肌の大敵である紫外線が少ない②かつ湿度が比較的高めで、肌が保湿される③関ケ原の戦いで豊臣方についた佐竹義宣公が、常陸国から出羽国久保田(秋田)藩に転封された際、水戸の美人を連れて行った、などの環境的要因や俗説が存在する。
それでは芸能人の中から、秋田美人の代表格を挙げてみよう。まずは「あきた美の国大使」を務めるモデル・女優の佐々木希さん(秋田市)と加藤夏希さん(由利本荘市)だ。佐々木さんは、アメリカの映画情報サイト「TC Candler」が選ぶ「世界で最も美しい顔100人」にもランクインしている。
そして、タレント・女優の壇蜜さん(横手市)。JA全農あきたの「あきたこまち」のCMで「天女」を演じて話題となった。中高年齢層には、演歌歌手の藤あや子さん(仙北市)、歌手の桜田淳子さん(秋田市)を挙げる人も多いだろう。
秋田弁は日本一難解な言葉?
続いて、秋田地方の方言「秋田弁」について。沖縄や隣県青森の津軽弁と並び、聞き取りにくく難解な方言といわれる。
その特徴は、「濁点が多い」「独特のイントネーション」「母音の発音の区別があいまい」に加えて、一つ一つのフレーズの短さ。「どさ」「ゆさ」は、日本一短い会話とされ、「どこに行くの」「銭湯に行ってくるよ」を意味する(※津軽弁でも使われる)。あらゆる名詞の語尾に、親しみを込めた言葉として「っこ」や「こ」を付けるのも特徴だ。
ちなみに筆者の父が上京した際、宿泊先のホテルのフロントで付近の観光名所を尋ねたところ、事務所から韓国語の通訳が現れたというエピソードがあるが、秋田弁が韓国語に聞こえると言う人は結構いる。
民俗芸能の宝庫、心洗われる鉄道旅
秋田県は民俗芸能の宝庫。全国最多となる17件の国指定重要無形民俗文化財を有する。中でも大みそか、わらの衣装と鬼の面をつけ、木製の出刃包丁を振り上げながら、「泣ぐ子はいねがー、怠け者はいねがー」「親の言うこど聞がねガキはいないがー」の怒声とともに家々を回る「男鹿のなまはげ」は、ユネスコの無形文化遺産だ。
毎年8月3日~6日に秋田市で開催される「秋田竿燈まつり」は、豊作を祈る祭り。米俵型の提灯を下げ、稲穂に見立てた高さ12メートル、重さ50キロもの竿を、手のひらや額、肩、腰で巧みに操り、光る稲穂が大通りを埋め尽くす。
各地の観光スポットも四季折々の表情を見せる。春は、「みちのくの小京都」仙北市角館町の武家屋敷を彩る枝垂れ桜。夏は、8月最終土曜に大仙市で開かれる全国花火競技大会(大曲の花火)。冬は、2月15、16日の夜に開催される「横手のかまくら」。秘湯感あふれる乳頭温泉郷(仙北市)の雪見露天風呂は、体も心も温まる。
ローカル線を使った鉄道旅もおすすめだ。角館駅と鷹巣駅を結ぶ秋田内陸縦貫鉄道では、新緑や紅葉の渓谷美、色鮮やかな田んぼアートが楽しめる。能代市と青森県田舎館村を結ぶ五能線では、日本海に沈む夕日や奇岩に打ち寄せる荒波、世界遺産・白神の山々などの絶景を満喫できる。
地酒の友はハタハタ寿司といぶりがっこ
日本有数の「米どころ」秋田には、米を使った郷土料理が多い。その筆頭が「きりたんぽ」。つぶしたご飯を、杉の棒に包むように巻き付けて焼いたもので、鍋料理のほか味噌を塗ってそのまま食べる。きりたんぽ鍋の出汁(だし)と具に欠かせないのが比内地鶏。県北部の米代川流域を中心に飼育されており、観賞用の原種(比内鶏)は秋田犬とともに国の天然記念物に指定されている。
「ハタハタ」は、日本海の海底に生息する深海魚。秋田の県魚に指定されており、塩焼きや煮つけのほか、にんじん、ゆず、麹(こうじ)を加え、塩・酢で漬け込んだ発酵ずし「ハタハタ寿司」も日本酒によく合う。ハタハタは「しょっつる」と呼ばれる魚醤にも加工され、魚卵はブリコと呼ばれる。
湯沢市などの特産、手で延ばした干しうどん「稲庭うどん」も、喉ごしの滑らかさで「日本三大うどん」の一つに数えられる。県民のアルコール消費量が全国トップレベルとあって地酒も豊富で、酒の肴には、大根を燻煙乾燥させた漬物「いぶりがっこ」が欠かせない。
沈滞する地元経済を救うか「菅効果」
秋田県出身者で初の首相となった菅氏だが、実は戦前、秋田市出身の「幻の総理」がいた。その人の名は町田忠治。ジャーナリスト出身で東洋経済新報の創始者の町田は銀行経営を経て衆議院議員となり、1935年、立憲民政党総裁に就任。翌年の総選挙で同党は大勝利をおさめ、第一党となる。本来なら、そのまま総理大臣になるべきところだが、すでに軍国主義、軍閥政治が広がり始めており、町田の首相への道はついに開かれることがなかった。
その後長らく国政を代表する人間がいなかっただけに、菅総理誕生に県内では菅フィーバーが巻き起こっている。菅氏の似顔絵が入り、湯沢特産のクルミ入りの味噌とゆべしを挟んだ、どら焼き「菅どら」や、世襲や派閥に無縁な政治家人生にちなんだ、かりんとう「たたき揚げ」など「菅和菓子」が続々登場し、飛ぶような売れ行きだ。
1956年の約135万人をピークに人口は減り続け、今や約96万人。過疎化・少子高齢化ニッポンの象徴ともいわれる秋田県。さらにコロナ禍が追い打ちをかける中、まさに降ってわいた「菅フィーバー」は、地元経済を救う起爆剤として期待されている。
バナー写真:世界で最も質の高い花火が鑑賞できる「大曲の花火」。全国の花火師が情熱とプライドをかけ、コンクール形式で技を競い合う=pixta