ラグビー日本代表、目標のW杯ベスト8は夢ではない
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2019年。
5月1日に元号が平成から令和へと変わった節目の年、日本はラグビーワールドカップ(W杯)のホスト国となる。
2015年のイングランド大会では「エディーさん」こと、ヘッドコーチのエディー・ジョーンズ氏に率いられた日本代表は強豪国の南アフリカに勝ち、世界に衝撃を与えた。
あれから、4年。
日本代表は強くなっているのだろうか?
答えは、「イエス」だ。
日本ラグビーは4年で大きく発展した
現在はイングランドのヘッドコーチとなったエディーさんが、W杯を約1年後に控えた2018年の秋に、ラグビーの聖地とも称されるトゥイッケナムで日本と戦った後、太鼓判を押してくれた。
「私が日本代表のヘッドコーチを務めていた時は、ティア1(世界のトップを構成する10カ国)のチームとはテストマッチを組んでもらえませんでした。2014年、W杯の前年秋のテストマッチの相手はルーマニアとジョージアでした。それがいまは違います。日本はオールブラックス(ニュージーランド代表)と戦い、そしてトゥイッケナムでイングランドとの対戦が組めます。これは日本のラグビーが大きな発展を遂げたことを示すものでしょう」
W杯で優勝を狙える実力を持つイングランドとのテストマッチで、日本はしっかりとその実力を発揮した。前半はFWが対等に渡り合い、15対10とリードして折り返す。後半はイングランドにスイッチが入り、結果的には15対35で敗れたものの、列強とも十分に戦える力があることを示した。
エディーさんはこんなコメントも残している。
「今日の日本代表のパフォーマンスにも満足していますし、ラグビー国としての地位が上がったことは間違いありません。さらにここに日本のメディアがたくさん来ています。ラグビー・コミュニティーができているのです。ヘッドコーチのジェイミー(・ジョセフ)とアタックのプランを練っているトニー(・ブラウン)は素晴らしい仕事をしていますし、リーチマイケルの卓越したキャプテンシーによって、次々に若くて才能のある選手がブレイクしていることがうかがえます」
私も同感だった。着実に地力は上がっている。
2019年に入り、日本代表はW杯に向けて着々と準備を整えつつある。代表の準備期間を長く取るために国内のトップリーグを前倒しで終了させ、2月からは数次にわたる合宿に入っている。
練習は、「ハードワーク」が有名になったエディーさんのチームよりも強度が高いという。
ある選手は、「タフな練習をケガせずにやり抜き、タフであることを証明しないとメンバーに残れないかも」と話す。
選手にタフネスを要求するジェイミーのこのアプローチは、本番まで変わらないだろう。W杯開幕直前の9月6日には埼玉・熊谷で因縁の南アフリカとのテストマッチが組まれている。
勝たなければ、意味がない
W杯前に、強豪国との対戦を組むのか——。
当然、ケガのリスクも増える。
正直なところ驚いたが、準備期間の最後の最後まで、ハードに準備を行い、タフな選手たちをそろえてW杯に挑む算段を組んでいるようだ。
前回大会から4年、列強と戦う経験を重ね、選手たちのマインドセットはさらに変わった。
「強豪と対戦するだけではなく、勝たなければ意味がない」
という意識を持つようになっている。
そしてまた、マインドセットが変わったのは選手たちばかりではない。日本のファンもそうだ。
2018年11月3日、味の素スタジアムでオールブラックスとの試合が行われた。前半は健闘していた日本代表だが、後半に入って敗色が濃厚になったとき、観客の落胆が場内の空気を支配した。
過去最多となる5つのトライを奪っていたのに、である。
これが私には驚きだった。
いまからさかのぼること32年前、1987年に第1回W杯で優勝したばかりのオールブラックスが来日した。大学生だった私は、国立競技場で行われた日本代表とのテストマッチ第2戦を観戦した。司令塔であるスタンドオフを、「ミスター・ラグビー」と呼ばれ、当時は神戸製鋼の選手だった平尾誠二が務めていたことを記憶しているが、結果は4対106での敗戦。まったく歯が立たなかった。
それでも、日本人としてまったく悔しさを覚えなかった。
実力差が甚だ大きいミスマッチだからハナから勝てるとは思っていなかったし、むしろ、オールブラックスが圧倒的なプレーを披露すると、スタンドからは歓声が沸いたことを記憶している。
オールブラックスは、日本人にとっても憧れのチームだった。
ところが、W杯で南アフリカを倒した日本代表を見たファンは、いまや、たとえオールブラックスが相手でも、好試合を期待するようになった。いや、番狂わせを観たいと本気になっていた。そして31対69の敗戦にがっかりするようになった。
日本代表に期待するファンの熱は、9月に始まるW杯でも大きな武器になるだろう。
「盛り上がり」への危機感を持つ選手たち
とはいえ、1987年の第1回大会以降、ティア1以外の国で行われるW杯は初めてであり、日本代表への声援だけでなく、W杯全体がどれだけ盛り上がるかを心配する声も聞こえてくる。実は、海外でのプレーを多く経験している日本の選手たちほど、この危機意識が強い。
選手たちは2011年のニュージーランド大会、2015年のイングランド大会を経験し、加えて海外でのテストマッチを戦っているなかで、強豪国の人々の生活に、ラグビーがどれだけ大きな意味を持っているか身をもって体感している。
これまでの開催国と同じような熱量、ホスピタリティを、果たして日本は持つことができるのだろうか? ラグビー文化が根づいていない日本で、海外の選手に満足を与えられるだろうか?
そう心配する選手たちが多いのだ。
イングランド大会でウィングとして大活躍した山田章仁は、こう話す。
「前回のW杯の開催前、日本でラグビーに関心を示す人は一握りの人だけでしたよね。だから、『2019年の大会を日本で開催して大丈夫なんだろうか?』という不安を僕個人は持っていました。南アフリカに勝ち、グループステージで3勝したことで日本でも大きな注目を集めるようになりましたが、あれはスタートにしか過ぎませんから。今度の大会では、日本中でテレビをつければラグビーが取り上げられ、学校や職場でラグビーの話題が出るようになることが大切だと思っています」
そのためには日本が勝つことが1番の近道——それが山田の考えだ。
スコットランド戦が“クルーシャル・ゲーム”
2019年5月20日現在、世界ランキング11位の日本は、W杯ではプールAに属し、試合スケジュールと会場は次のようになっている。
- 9月20日 ロシア(世界ランキング20位 東京)
- 9月28日 アイルランド(世界ランキング3位 静岡)
- 10月5日 サモア(世界ランキング17位 豊田)
- 10月13日 スコットランド(世界ランキング7位 横浜)
前回大会では3勝1敗で南アフリカ、スコットランドと並びながら、ボーナスポイント(※1)の差で8強進出を逃しただけに、是が非でもエディー・ジャパンを超えたい。
そのためには、まずグループリーグで上位2カ国に入ることが必要だ。
格下のロシアと、前回大会で勝ったサモアに敗れることは許されない。2勝を確保したうえで、世界ランキングの上位国であるアイルランドとスコットランドのどちらかを崩すことができるかどうか。
特に大きな意味を持つのは、最終戦のスコットランド戦だろう。プールAではアイルランドが一歩リードしている。日本代表は、スコットランドと日本が同じ2勝1敗で最終戦を迎え、勝った方がアイルランドと共に8強進出、というシナリオを描いている。
今年4月、東京都内で取材に応じたエディーさんは、日本代表にとってのスコットランド戦をこのように表現した。
“Crucial game(クルーシャル・ゲーム)”
極めて重要な試合、とでも訳しておこうか。
歴史上、日本代表が国内においてこれほど「マスト・ウィン」の状況で戦うことはなかった。
試練ではある。
しかし、日本のラグビー文化を豊かなものとするには、スコットランド戦での勝利がどうしても必要だ。
私は海外で、ラグビーの熱に触れてきた。
テストマッチ当日、ロンドンのウォータールー駅からイングランド代表のジャージを着て試合の何時間も前に列車に乗り込んできた老若男女。
朝の登校時に楕円球を地面にバウンドさせ、自然と手元へ収めながら歩くニュージーランドの小学生たち。
2003年のW杯、オールブラックスが試合前に披露する「ハカ」に対抗して、国民が愛する「ワルツィング・マチルダ」を大合唱して対抗しようとしていたオーストラリア人たち。
W杯は選手だけでなく、ファンも共に戦う舞台なのだ。
9月20日の開幕戦までに、日本代表がどれだけ国民に期待を抱かせることが出来るのか。日本のラグビー関係者の腕の見せどころである。
(バナー写真:ニュージーランドとのテストマッチで、後半にトライを決めたヘンリージェイミー 時事)
(※1) ^ ラグビーW杯のボーナスポイント:トライ数が4以上=1ポイント(勝敗にかかわらず加算)。7点差以内での敗戦=1ポイント