やってきた冬の暮らし、「寒い」は痛くて動けない
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それは突然やってきた。
軽井沢に引っ越して以来、来るぞ来るぞと聞いていた「マイナス2桁」、そして最高気温が零下、つまり一日中氷点下にとじこめられるという、軽井沢らしい冬の冷え込みだ。
今年1月に日本を襲った寒波は、東京にも零下2度という寒い朝をもたらすと騒がれていた。同じ時期、軽井沢の週間天気には、マイナス15℃、マイナス13℃という最低気温が表示されていた。もちろん、最高気温も氷点下だ。
おお、これが。いよいよ。
怖いものみたさに近いワクワク感と、人生初体験への不安とを感じながら迎えた初日は、あっけなく終わった。「あれ、そんなに寒くない」。
振り返ってみれば、それもそのはず。子どもたちを朝送っていくのも、夕方に迎えに行くのも車。帰宅してからは寝るまで外に出ることもなく、暖房が存分にきいた家の中にいる。零下の空気には、ほとんど身をさらしていないのだから。
自分の歯の音が止められない
「これくらいなら大丈夫だな」
そう思って東京から軽井沢駅に戻ってきた、ある日の夜7時過ぎ。
駅近くの駐車場に停めた車のドアを開けるために手袋を外した瞬間、これまでにない感覚をおぼえた。金属のドアに触れた手が、ぴりぴりと痛い。
一日中外に置いていた車のフロントガラスはびっしりと白く霜に覆われ、ゴムのスクレイパーでこすってみても、くねくねとゴムが曲がるだけで霜を落とすことはできない。
そういえばこんなときのために、オートショップで「解氷 霜取りスプレー」なるものを勧められて買っていたことを思い出し(奇跡!)、懸命に窓に吹きかける。この時点で右手の指はすでに感覚を失い、全身は小刻みに震え始めた。
冷たい風にさらされて、耳はちぎれそうだ。
広いガラスに、「シューッ」「シューッ」と一筋ずつスプレーすること十数分。なんとか視界を確保した頃には、あまりの寒さに「カタカタカタ……」と自然と歯が音を立てて止まらなくなっていた。
寒いではなく痛い。身体が自分を守ろうと固まって動かない。これが軽井沢の寒波だった。
朝ごはんを食べたらスキー場
軽井沢町の冬の気温は、1月の平均気温マイナス3.3℃、平均最低気温がマイナス8.2℃。2月の平均気温はマイナス2.6℃で、平均最低気温はマイナス8.0℃。
長野県内で比べてみても、降雪量は少ないものの、冷え込みがとりわけ厳しい土地だ。
長野県庁で働く知人は、「軽井沢に移住したいという人には、『本当に寒いですよ』と念押しします。寒さが苦手なら、隣の御代田町や佐久市のほうがはるかにあたたかくておすすめですから」と笑う。
ただ、子どもたちが寒さに慣れるのはあっという間だった。
雪が空を舞い始めれば、スノーブーツを履き、ダウンに小さい身体をくるんで嬉しそうに外へ飛び出していく。
「あ、雪が降るね」
まだ空が青いうちに不思議と気がつくのは、雪を楽しむ者たちの本能なのだろうか。
どれほど気温が下がっても、「寒い」という言葉は聞いたことがない。
せっかく軽井沢に来たのだからと、スキーも始めた。
雪が多くない軽井沢近辺のスキー場は、人工雪を使って11月半ばから滑れるようにはなっていたが、年明けからの寒さもあり、1月半ばからは天然の雪も増えてほどよいコンディションになっていた。
朝食を家で食べ、スキーウェアに着替えて車に乗り込む。10分ちょっとで到着したら、すぐゲレンデへ。デビューしたての子どもたちには、初心者向きのコースがちょうどいい。滑って転んで疲れたら、そのまま車に乗って帰宅。お昼ご飯は家で食べられる。
これだけ手軽にスキー場に通えれば、頻度も上がるし、うまくもなる。3月を迎える頃には、リフトに乗る姿も様になり、ゲレンデをなんとか滑り降りてこられるようになってきた。
長い冬を過ごした先に
気が付けば、あれほど辛かった氷点下2桁の寒さにも慣れてきた。
子どもたちと学校や保育園へ向かう道に設置された温度計は、当たり前のように毎朝氷点下を示しているが、マイナス3℃、4℃なら「あれ、今日は寒くないじゃん」と誰かが言い出す。人間の順応力は恐ろしい。
降雪量が少ないので、数日晴天が続けば、あっという間に雪は溶けてしまう。すっかり灰色に戻った道路を見ると、雪が積もった白い道が懐かしくなる。
1日中雪が降ることはめったにないが、まだしばらく氷点下生活は続きそうだ。凍えるような寒さも、きっとまたやってくるだろう。
軽井沢の冬は長いと聞く。だからこそ、春が来るのが嬉しいとも。
軽井沢の春の気配はどこからやって来るのか。今からちょっと楽しみだ。
バナー写真:軽井沢町・追分エリアから見た雪景色。子どもも思わず「わあきれい」と立ち止まっていた(筆者撮影)