藤竜也と石倉三郎、“撮影所育ち”のベテランが初共演 映画『それいけ!ゲートボールさくら組』で同級生役
Cinema- English
- 日本語
- 简体字
- 繁體字
- Français
- Español
- العربية
- Русский
ゲートボールは日本で生まれた競技で、体力差に関係なく、老若男女が一緒に楽しめ、障害者にも親しみやすいユニバーサル・スポーツとして世界に広まっている。映画『それいけ!ゲートボールさくら組』は、その大会に出場することになったシニアたちが繰り広げる家族の絆と友情の物語だ。
藤竜也が演じるのは主人公の桃次郎、76歳。カレー専門店を営む。妻に先立たれ、息子夫婦と孫との同居生活に気詰まりを感じている。ある日、年配の女性が娘に連れられてカレー店にやってくる。そんな形で桃次郎が主将を務めたラグビー部のマネージャーだったサクラ(山口果林)と久々の再会を果たす。
彼女が経営するデイサービス施設“桜ハウス”に危機が迫っていることを知った桃次郎は、親友の菊男(石倉三郎)を誘って、再建策を練る。それは、かつての仲間たちでゲートボールチームを結成し、大会に出場して優勝することで施設の知名度を上げ、入会者を増やして銀行の融資を受けられるようにするというものだった。しかしまずゲートボールの習得に悪戦苦闘。さらに施設の用地買収をもくろむ悪徳不動産開発会社が、すご腕のメンバーをそろえたチームを送り込んできて…。
ゲートボールは熱くなる
― お二人はゲートボールの経験や知識は?
石倉 三郎 まったくありません。正直言うとね、ゲートボールってなんか年寄りくさいイメージがあったんですよ。だから最初、あの藤さんがゲートボールの映画に出ると聞いて、意外に思ったほどで。
藤 竜也 でも実は若い人もやっているんですね。私たちがコーチしてもらったのは作新学院の女子生徒でした。
― 実際にやってみてどうでしたか?
藤 ナメてました(笑)。見るのと、やるのとでは全然違いましたね。
― 練習はどのくらいされたんですか?
石倉 いや、全然。本番前にちょっと打ってみたくらいで。
藤 監督にしなくていいって言われていたからね。CGで球はどこにでも行きますからって(笑)。だけど現場に行ったら、10メートル先のゲートに入れてくれって言うんですよ。
石倉 いや、それCGだったんじゃないの?って言ったら、やってくださいって。
― ちゃんと打っていらっしゃいましたよね?
石倉 打ってますよ。これがもう、見事に。何でもやるんですよ、役者は。藤さんなんて、ビシッといきますからね。
藤 いやいや。撮影の合間にね、みんなコツコツ練習してましたよ。
― 球を狙い通りに打つ技術に加えて、戦術がモノを言うゲームみたいですね。相手チームの球をはじき出したり、ちょっと意地悪なところもあって。
藤 この映画でもケンカが起きるでしょ。石倉さんの役は、ミスをしたチームメイトのことをクソミソに言ってね…。
石倉 そりゃそうですよ、あれはなかなか熱くなりますよね。
高齢化社会の現実をさりげなく
― 藤さん演じる桃次郎は、みんなを引っ張るキャプテン。石倉さん演じる菊男は調子がよくて、ちょっとスケベなキャラクターですね…。
石倉 持って生まれた性格というかね。
藤 フフフ。
石倉 あの役は、ですね。まあ、私もそうですけどね(笑)。
藤 ハッハッハ。
― でも菊男には、中年になった引きこもりの息子がいて。説教もせずに、ごはんを作って部屋の外に置いてあげる、思いやりのあるお父さんでしたね。
石倉 もう説教してもしょうがないだろうなって気持ちでいましたよ。ああいう状況に置かれている人がたくさんいらっしゃるんでしょうね。大変だろうなと思いますよ。
藤 その息子さんとの触れ合いが、この映画の泣かせるところですよね。
― コメディタッチの映画ですが、登場人物たちの背景には、認知症、独居老人、家族との関係、病気といった高齢者のシビアな現実が見え隠れするように描かれていますね。
藤 そういう意識を大上段に振りかざすのではなく、さりげなくね。そこがいいんじゃないですか。想像力を掻き立てる幅があるからね。これでもかって説明して押し付けられるよりも、こうやって描く方が品がいいですね。
― 石倉さんも脚本を読んで共感するところはありましたか?
石倉 というか私はね、藤さんが好きですからね。
藤 ヘッヘッヘ、何ですか、突然。
石倉 「藤竜也か、おお、いいなあ、やるやる!」っていう、それだけでしたけどね。
― お二人はこれまで共演されたことは…
石倉 ありません。
藤 石倉さんが司会のテレビ番組に、私がゲストで出させていただいたことはありましたけど。その時が初めてですよ。もちろん名優ですからね、ご活躍は知っていましたよ。
石倉 とんでもないですよ! 私がやっていた「映画酒」っていう番組があるんですけどね、藤さんがゲストで来たとき俺、感動したもの!うわー、これから二人でしゃべれるんだって。
この仕事を続けてきてよかった
― お二人のキャリアからすると、初共演は意外ですが。
石倉 それこそ昔は五社協定なんてあったじゃないですか。他社の映画には出られない。テレビだとチャンスがありますけど、どういうわけか、藤さんとはご一緒できませんでしたね。
― 藤さんは日活。石倉さんは最初、東映でしたね。お二人とも任侠映画によく出られて。
石倉 いや、だいぶ違いますけどね。藤さんはバシッと格好良くて、私は斬られ役専門ですから。
― いわゆる「大部屋俳優」でいらっしゃった。
石倉 うん、私はね。
藤 私も大部屋にいましたよ。共通するものがね、なんかあるんでしょうね。
― 石倉さんが東映に入ったのは、高倉健さんの紹介だとか。
石倉 上京してアルバイトをしていた喫茶店に、たまたま健さんがよく来ていたんですよ。私は三木のり平さんに弟子入りしたくてね。健さんは天下の二枚目だから、自分からはとても近付けなくて。でも向こうから声を掛けてくれて、東映に入れてもらったんです。
― その後、東映をやめてお笑いの世界に入って。テレビで人気者になり、また映画に戻ってきたんですね。
石倉 最終的にどうにでもなれと思って入ったお笑いの世界で、ポッと浮かび上がってメシが食えるようになった。そんな時に健さんが電話をくれましてね、「おお、やってたんだなあ」って。おぼえていてくれたことに感動しましたよ。でもまず思ったのは、「俺の電話番号、何で知ってんだ?」(笑)。私にとって健さんとの出会いは「僥倖(ぎょうこう)」ですよね。あり得ない幸運に恵まれたという感じでね。
― 藤さんも若い頃は石原裕次郎さんに可愛がられたそうですね。
藤 何でなのか不思議でしょうがないんですが、石原さんのそばにいるだけで温かくなるんですよ。暖かい日差しの中にいるみたいにね。私が駆け出しの時でも、同じ人間として見てくれる視線を感じましたね。後輩だろうが関係なく、人に対するリスペクトがあるんですよ。これはすごく印象に残っていますね。
― 藤さんも同じように若い人に接しますね。
藤 言葉ではなく、態度からそういうことを教わったんでしょうね。私は相手を年齢で考えませんから。俳優の世界ってね、子役でも素晴らしいお芝居したらすごいなって思いますもんね。
石倉 やっぱりそれは藤さんの人となりですよ。この居住まいというかね、何だろう、いいんですよねえ。これは本当のファンにしか分からないでしょうけど、好きですねえ。使い古された言葉ですけど、スターぶらない。一人の俳優として、普通にしていらっしゃる。これがいいんですよねえ。
藤 いやいや、お恥ずかしい。
石倉 あれだけのスター街道でキャリアを積んできてね、年を経るにしたがって、どんどん無駄なものをそぎ落としてきた感じ、私には分かるんですよねえ。
― 藤さんは今回、石倉さんと共演されていかがでしたか。
藤 お互い、撮影所育ちの空気をどこかに背負ってますよね。それが感じられるのはやっぱりいいものですねえ。
― 同級生役で居酒屋のカウンターに並んで、お酒を酌み交わすシーンもありました。
石倉 うんうん、私の気持ち分かるでしょ? あのうれしさたるや、なかったですね! ああいう時なんですよ、この仕事を続けてきてよかったなって思うの。あの場面ですぐ思いましたよ。
藤 いいシーンでしたね。一緒にいて心が通い合っているのを、私も味わいました。そういうのは、画(え)に出ますよね。
― こんなに長く映画の仕事をしてきても、そういう感慨があるものですか。
石倉 ありますよ!
藤 ありますねえ。お互いにこの世界で長い間やってきたことへの敬意を感じますよね。戦ってきたのは別の戦場だったけど、戦友のような感じですね。
台本は破り捨てた
― 本作は藤さんにとって、80代最初の作品、それも主演でした。
藤 こんな話をいただけるとはねえ。第一、80まで生きてるなんて、考えてもみなかったから(笑)。いや、ありがたいですよ。それにコロナがあったでしょ。地元の友人もみんな年寄りだから、外出を自粛しちゃってね。さみしく生活していたんですよ。だから、この映画の中で、高校時代の仲間が集まってスクラムを組んで悪と戦うなんて痛快でしたよ。ただね、撮影の場所が遠くてね(笑)。
石倉 うん。千葉、東松山、愛甲石田…。
藤 ゲートボール場がやたら遠いところにありまして(笑)。二人とも自分で車を運転して撮影に行くもんですからね。片道100キロ、渋滞に巻き込まれて6時間なんてこともあったし。石倉さんと話しましたよね、これを乗り切ったら自分で自分をほめてやりたいって。
― その甲斐あって、これからお客さんがご覧になります(取材は完成披露上映会の前)。
石倉 晴れやかな舞台ですよね。完成披露、もう何年かぶりですよ。それこそ、健さんと共演した『四十七人の刺客』(94)以来じゃないですかね、たぶん。
― 今回は準主役ですからね。
石倉 いやまあ、おこがましいですけどね。私らの業界でいうところの「おいしい役」を頂戴しまして、ありがたいですね。藤さんのような主役の脇でウロウロできるというね。これはやっぱりうれしいですよ。
― この映画のキャッチフレーズは「人生には、遅すぎることなんてひとつもない」ですが、今回はまさにそんな心境ではないですか。
石倉 遅すぎたとかね、私なんかまったく思うことないですよね。次の仕事いつ来るんだみたいな世界で何十年もやってますとね、もう振り返る余裕なんかないですよ。ただ生きてる。あとはまあ、好きな酒でも飲んでみたりね、そんなことしてるだけですよ。
― 藤さんも振り返ることはありませんか。
藤 ないです。仕事を受けるたびに、これが最後と思ってやっていますからね。1本やってまた1本。それ以上は考えませんよ。撮影が終わったら台本は破り捨てます。撮影は楽しいんだけど、やっぱりつらいんです。苦しいんですよ。現場で仲間とおしゃべりしていても、神経は全部、自分の役に向かっていますから。旅に出ているみたいな感じなんです。だからようやく旅が終わって帰ってきたら、台本をこうガーッと裂く、これが気持ちよくってね(笑)。台本は残しません。心の中にだけ残っています。
撮影=花井 智子
取材・文=松本 卓也(ニッポンドットコム)
作品情報
- 出演:藤 竜也
石倉 三郎 大門 正明 森次 晃嗣 小倉 一郎
田中 美里 本田 望結 木村 理恵 / 赤木 悠真 川俣 しのぶ 中村 綾 直江 喜一
特別出演:毒蝮 三太夫 友情出演:三遊亭 円楽
/ 山口 果林 - 監督・脚本・編集:野⽥ 孝則
- 配給:東京テアトル
- 製作年:2023年
- 製作国:日本
- 公式サイト:https://gateball-movie.jp/
- 絶賛公開中!