映画『461個のおべんとう』: KREVA絶賛「イノッチがイノッチであることがすごい!」兼重淳監督と語る
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原作の『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』は、2014年にマガジンハウスから刊行された渡辺俊美のエッセイ。最近になって文庫化され、これまでに漫画やテレビドラマにもなった人気作品が、兼重淳監督のメガホンで映画化された。
主人公は長年連れ添った妻と別れることを決意したミュージシャンの鈴本一樹(井ノ原快彦)。15歳になる息子・虹輝(道枝駿佑)を引き取り、2人で暮らすことになった。受験に失敗し、1年遅れて高校に進学した虹輝を応援する一樹は、「3年間、休まず学校へ行くこと」を約束してもらう代わりに、「3年間、パパが毎日お弁当を作る!」と宣言。人気バンドのメンバーとして仕事をこなしながら、ライブの翌日も、二日酔いの朝も、父は息子のために毎日欠かさず弁当を作り続ける……。
劇中に登場するバンド「Ten 4 The Suns」で、ギター・ボーカルの一樹、DJの河上利也(やついいちろう)とともに、MCの古市栄太を演じたのがKREVA。最初はバンドのポスター写真の撮影から入ったという。
――劇中のバンドは「結成20年目」という設定だそうですが、いきなりその雰囲気を出すのに苦労されたのでは?
KREVA いや、2秒で出ました(笑)。ミュージシャン役であるからには、やっぱり「ミュージシャン然」とした振る舞いが求められると思ったので、普段通り楽しんでやればいいんだって。兼重組は、監督を筆頭に現場の雰囲気がとても良くて、「お前、あれ早く持ってこいよ!」みたいな怒号が飛び交うことはまったくなく、キャストもスタッフも楽しそうなんです。
兼重 「あれ? なんか今日、監督怒ってるのかなあ」とか、気を遣われるのが嫌なんですよ。スタッフも皆、大体同じくらいの年なので、オヤジギャグを順々に繰り出して……。
KREVA だからといって、決して全部がゆるいというわけでもないんです。「ここはもう少しこうしましょうか」と言われても、素直に聞けて、常に自然体でいられるんです。
バンドの和気あいあいとした雰囲気は画面からも十分に伝わってくるが、撮影中のこんな裏話もあった。
兼重 やついさんが寝違えた日があって。「じゃ、それ、いただきました!」って、急きょセリフに生かすことにしたんです。
KREVA そうそうそう! 首が痛くて何にも荷物を運ばないやっつん(やつい)のことを、イノッチと僕がいじるっていうシチュエーションで。
イノッチは「毎日お弁当を作りそうな人」
映画化にあたっては、オリジナルな要素を増やして、エッセイとは少し違う世界観を演出するように心がけたという兼重監督。それを可能にしたのが「イノッチ」こと、主演の井ノ原快彦だ。エッセイの著者である渡辺俊美からキャラクターを引き継ぎながらも、物真似ではない独自の人物像を打ち出すには、ぴったりのキャストだった。
兼重 イノッチはナチュラルな芝居ができて、圧倒的な安定感があると思いました。
KREVA 確かに、安定感ね。長年、朝の顔(NHK朝の情報番組「あさイチ」のMC)を務めていた人だから。俊美さんの落ち着いた、柔らかい雰囲気にうまくハマっていますよね。
兼重 今となっては、むしろ俊美さんの方が「イノッチに寄せるようにしている」と話しています(笑)。何よりも、イノッチってお弁当を本当に作りそうだしね。
KREVA そこ大事だなあ。言われてみると、「毎日お弁当を作りそうな雰囲気」が出せる人を探すのって、なかなか難しいですよね。
兼重 お弁当を毎日作ることが恩着せがましくなっちゃうと嫌だなあって。イノッチだったら押し付けがましくなく、本当に楽しんでやっている感じが出せそうだなって思ったんです。
KREVA そんな感じでいながら、彼はV6のメンバーとして何万人も前にしてライブをやったり、朝の顔を務めたり、CMにも出たりと、日本でも指折りの責任を背負ってきた存在ですよね。どんなプレッシャーの中でも、どんな状況下でも、ずっとイノッチのままでいられるのは本当にすごいことだと思います。打ち上げの席でも本人をほめまくったんですよ。「イノッチがイノッチであることがすごい!」って。
――映画では、井ノ原さんのミュージシャンの一面も堪能できますね。ライブシーンは監督の中で最初から見せ場としてイメージされていたんですか?
兼重 世界観を変えるといっても、そこは「TOKYO No.1 SOUL SET」の渡辺俊美さんの話ですから、ライブシーンの撮影は、絶対に手を抜いてはいけないところだと思って臨みました。イノッチも最初から「演奏にはこだわりたい」と言ってくれていた。その結果、ライブの場面では、エキストラの人たちが本当に観客として喜んでくれていました。「これ、もしやお金が取れたんじゃないの?」っていうくらい(笑)。
KREVA ギターの演奏に関しては、イノッチも俊美さんにいろいろ聞きながら真摯に打ち込んでいましたね。ライブシーンの撮影では、ステージから楽屋に戻るたびに、「俺らのバンド、人気あるな」って、3人ですっかりその気になっていました(笑)。演奏シーンがぬるかったら、お弁当作りとの対比が生きてこなくなりますからね。「趣味でやっているミュージシャンじゃないぞ、現役バリバリの人気ミュージシャンなんだぞ」っていうのを表現するには、音楽がすごく大事だと感じました。
お弁当からあふれ出る力
――音楽が重要であると同時に、渡辺俊美さんが原発事故で風評被害を受けた福島出身ということもあって、「食を通じて生きることを伝えたい」という監督の思いも込められているんですよね?
兼重 俊美さんの故郷は福島県の富岡町で、かつて日常生活を送っていた町や駅が、一瞬にして津波にのまれてしまった。今回そこでロケをしたのは、いまだ復興が進んでいないというつらい現実も、ちゃんと伝えなければいけないと思ったからなんです。
KREVA この映画を観て「ご飯を作ってもらえることって、本当にありがたいことだなあ」と思うようになりました。映画の中では、ある理由からお弁当がゴミ箱に捨てられる場面もあるけど、自分ならせっかく作ったお弁当を子どもに捨てられたらつらいなあ。そういえばこの前、娘のお弁当を僕が作らなきゃいけなくなったんですよ。「ついにこの時がきたな!」と思って頑張りました。
兼重 娘さんの反応は?
KREVA 全部食べてくれて、「おいしかったよ」って。すごくうれしかったですね。ただ、これを毎日できるかって言われると……。好き嫌いもあるだろうし、栄養バランスや見た目にもこだわって作るのって、すごくクリエイティブな作業ですよね。
兼重 映画に出てくるお弁当は、『かもめ食堂』や『南極料理人』の料理も手掛けた飯島奈美さん率いる食のスペシャリストチームに担当してもらったので、おいしい上に、見せ方も素晴らしいんですよ。
KREVA おいしそうなお弁当がスクリーンいっぱいに映し出されるから、この映画を観ると腹が減る(笑)。イノッチややっつんとも「上映館の前にキッチンカーを出してお弁当を売ったら、相当売れるんじゃないか」って話していたんです(笑)。
兼重 イノッチは努力家なので、撮影期間中は家でずっと卵焼きを焼いていたらしいです。家にあった卵を全部使って怒られたと話していました。
――お二人とも、この映画の一樹のように「好きなことを仕事にしている父親」ですが、お子さんに伝えてきたことは何かありますか?
KREVA 「簡単じゃないよ」ということだけは言ってます。子どもたちは「ユーチューバーって、ずっと遊んでていいなあ」とか言うけど、「それずっとできる?その程度の好きだったらきっとみんなと一緒だよ」って。仕事にならなくてもいいから、好きなものを見つけてほしいです。それだけでもすごく幸せだと思います。親としては、好きなことを見つけるための可能性だけは、なるべくたくさん与えてあげたいなと思っています。
兼重 僕の息子は、僕とはまったく違う堅気の仕事に就いたので、きっと親父の背中を見ていて「これじゃダメだ」と思ったんでしょう(笑)。撮影中は息子が小さかった頃のことを思い出したりもしました。子育てって毎日いろいろあって大変なんだけど、振り返ってみると本当にあっという間なんですよね。そんな走馬灯のような映画になったかな。もしこの映画が大ヒットして「パート2」が作れることになったら、「学生バンドを組んだ息子が、お父さんのバンドと対バンする」みたいなエピソードも入れられたら面白いと思っているんですけどね。
――最後にKREVAさんからこの映画の見どころを。
KREVA お弁当を作る側も、作ってもらう側も、観た人それぞれの立場で感じることの多い映画だと思います。父と息子の物語の合間に、いい感じに仲良しの3人組が登場するので、ぜひ“味変”のおかずとして楽しんでもらえると、「おべんとう」がもっとおいしくなるんじゃないかなと思います。
撮影=花井 智子【KREVA ヘアメイク:結城藍揮/スタイリスト:藤本大輔(tas)】
取材・文=渡邊 玲子
作品情報
- 監督:兼重 淳
- 脚本:清水 匡 兼重 淳
- 原作:渡辺 俊美(TOKYO No.1 SOUL SET)『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』(マガジンハウス刊)
- 音楽:渡辺 俊美
- 出演:井ノ原 快彦、道枝 駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、森 七菜、若林 時英、工藤 遥、阿部 純子、野間口 徹、映美 くらら、KREVA、やつい いちろう、坂井 真紀、倍賞 千恵子
- 配給:東映
- 製作国:日本
- 製作年:2020年
- 上映時間:119分
- 公式サイト:https://461obento.jp/
- 11月6日(金)より全国ロードショー