【書評】どこで、どう間違えたか:西野智彦著『平成金融史 バブル崩壊からアベノミクスまで』

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30年余にわたる平成時代の主要な金融行政・政策について、大蔵省、日銀、政治家などの関係者の肉声・証言で再構成した意欲的なドキュメンタリーである。そのままテレビ番組にできそうなほどの迫真のリアリティーがあり、経済小説を読んだような読後感を覚えるに違いない。

西野 智彦 NISHINO Tomohiko

ジャーナリスト。「平成金融史」(中公新書)、「検証経済」シリーズ(岩波書店)など精緻な取材に基づく著作で知られる。「ドキュメント日銀漂流」(同)で2021年度石橋湛山賞を受賞。

掘り起こした事実の集大成

本来ならばとても一人で執筆、構成できるスパンではないが、筆者にはいまや現代金融史のテキストというべき1990年代の金融動乱を克明にドキュメントした「検証 経済失政」「検証 経済迷走」「検証 経済暗雲」(いずれも岩波書店刊)という3冊の著書・共著がある。

今回、2000年代の初めに書かれたこれらの著書をベースに、「10年以上もの」時間を費やして再取材したという。新書版ではあるが、300ページを超える労作である。読めば、極めて広範な政治家、当局者への取材に基づくものであることが分かる。登場人物を数えてはいないが、100人を軽く超えるのではないか。

一連の前著を今の視点から再検証した前半と、後半は新たに1998年の長銀破綻以降の主要な出来事を追加した構成となっている。銀行に不良債権の引当金の積み上げを強制した竹中プランがどのようにして生まれたのか、リーマン・ショック時に東京で何が起こっていたのか、そして黒田東彦・日銀総裁登場の経緯など、いずれも金融界にとっての大事件を前著同様、カッコ書きの証言によって事実を淡々と重ねていく。

字数の関係から内容に立ち入ることができないが、いずれの出来事にも秘話があり、スクープが盛り込まれている。通常、入手できない内部のメモも交え、隠された事実がどんどん浮かび上がる。

竹中平蔵大臣の側近となった木村剛氏のあの有名なメモの作成経緯、りそな銀行への公的資金注入の経緯、リーマン・ブラザーズ日本法人が破綻した日の出来事、日本振興銀行のペイオフ実施の準備態勢、2013年の日銀と政府の共同声明と白川方明前日銀総裁の辞意の真相、そして黒田総裁再任が1年前に決定していたこと、安倍晋三首相が消費者物価指数(CPI)2%にこだわっていないことなどが次々と明らかにされる。

異次元緩和「実に危なっかしい」

筆者は平成時代の金融動乱について「すべて失敗と実験の連続だった」と厳しく総括する。そして、ある当局者から「次に到来する金融危機への対応は非常に難しく、長引くのではないか」との証言を引き出し、「異次元と称される金融緩和も実に危なっかしく、心許ない」と将来の懸念を隠さない。平成時代を回顧する本があふれるが、その中でも内容の信頼度において屈指の著書といえよう。

平成金融史―バブル崩壊からアベノミクスまで―

西野 智彦(著)
発行:中央公論新社
新書版:328ページ
初版発行日:2019年4月25日
ISBN:978-4-12-102541-8

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