トランプ2.0外交:世界が戦々恐々となる理由
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「最大の脅威」、中国に絞り込み
トランプ氏が外交・安保政策の二本柱として「米国第一主義」と「力による平和」を掲げているのは、1期目とほとんど変わっていない。2期目の大きな違いは、外交・安保の焦点を中国の脅威に大きくシフトしたことだろう。
1期目の「国家安全保障戦略」(2017年12月)と「国家防衛戦略」(2018年1月)において、トランプ政権は「米国の繁栄と安全に最重要な課題は、国際秩序の改変をめざす中国、ロシアとの長期かつ戦略的な競争」(※1) とし、中国の脅威を重視しつつも、両国を重要な「戦略的競争相手」と位置付けていた。
だが今年5月、トランプ氏の顧問や専門家らが結集するシンクタンク「米国第一政策研究所(AFPI)」が2期目に向けて発表した政策提言書『米国第一の国家安全保障アプローチ』 (※2)などでは、「米国の最大の脅威はウクライナ戦争ではなく、中国である」と言い切っている。ロシアの脅威にはさほど触れておらず、明らかにトーンが変わった。中国を「唯一最大の敵」に絞り込んでいると言ってよい。
ウクライナ停戦でロシアを引き込む?
世界の警察官役を放棄し、「米国第一」を掲げるトランプ氏にとって、限られた軍事・財政的資源を最優先課題に集中するのは当然かもしれない。その関連で注目されるのが、バイデン政権下でウクライナに投入された膨大な軍事・財政支援だ。上記の政策提言書も「勝ち目のない戦争に限られた資源を注入するのをやめて、中国の抑止に集中すべきだ」と訴えており、トランプ氏自身も「ウクライナ戦争を24時間以内に終わらせる」などと豪語している。対ロ交渉を先行して進めるために「ウクライナ特使」を新設し、AFPIの外交・安保チーム共同議長を務めるキース・ケロッグ氏(元陸軍中将)を指名した。
対中では、既に外交・安保を担う主要閣僚・高官として、国務長官にマルコ・ルビオ共和党上院議員、国家安全保障担当大統領補佐官にマイケル・ウォルツ同党下院議員を指名した。ルビオ、ウォルツ両氏は、共に筋金入りの対中強硬派で知られる。一方で、中央情報局(CIA)などを含む情報機関を統括する国家情報長官(DNI)にはトゥルシー・ギャバード元民主党下院議員を指名している。
ギャバード氏は過去にロシアやプーチン大統領に同調する発言をしたことがあり、米メディアなどから「国家情報を統括する要職に親ロ派を据えてもいいのか」との疑問が投げかけられており、「プーチン対策」を意図した指名ともみられている。
トランプ氏に近いロバート・オブライエン氏(1期目の国家安全保障担当補佐官)らは「戦争を早く終結させ、ロシアを中国との連携から引きはがすべきだ」と主張している(※3) 。トランプ氏自身の真意は不明だが、戦争の早期収拾を通じてプーチン氏を懐柔し、その先で「中ロの離間」を狙っている可能性もある。かつてニクソン政権が中国に接近して、ソ連を孤立化させた「チャイナカード」政策の逆パターンである。
国際秩序へのリスク
問題は、国際社会のモラルに与える影響とリスクだ。ウクライナが人命や領土の損失を省みずに停戦を強いられれば、「武力による現状変更を許さない」という第二次大戦後の世界の基本ルールが踏みにじられ、日本などが掲げてきた「法の支配に基づく秩序」が崩壊するリスクをはらんでいるのは言うまでもない。台湾について「武力統一も辞さない」とする中国がこれを先例とみなし、武力による威嚇を一層高める恐れもある。
岸田文雄前首相は「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」との危機感を訴えて、日米欧によるウクライナ支援の先頭に立ってきた。トランプ次期政権がウクライナに「大義なき和平」を押し付けると、日欧諸国ははしごを外される形となり、先進国首脳会議(G7サミット)や北大西洋条約機構(NATO)の結束はもとより、日米同盟の連携にも支障をきたす恐れがある。
ロ朝同盟にどう対応?
ロシアと北朝鮮の軍事同盟にどう対応するかも問題だ。両国は6月に締結した「包括的戦略パートナーシップ条約」の下で、北朝鮮部隊のロシア派兵や北朝鮮の核・ミサイル技術支援などを進めている。
トランプ氏は1期目の経験からプーチン氏や北朝鮮の金正恩総書記との個人的関係に自信を深めているとされるが、欧州・東アジア情勢は戦争も派兵もなかった当時とは様相が一変した。両国の行動は欧州と東アジア双方の安全を同時に脅かしているのが現状だ。ロシア、北朝鮮を抱き込もうとしても成功する保証はなく、逆に付け込まれる心配もある。
台湾に関しても不明な点が残る。トランプ氏は台湾有事の際に「中国からの輸入品に120~150%の関税を課す」と、懲罰的関税で対応する姿勢を示しているが、米国や同盟国の介入については言葉を濁している。日韓などの同盟・パートナー諸国はどう対応すべきかを巡り、悩ましい状況が続くだろう。トランプ氏が独断で突き進む展開に備えて、日欧などの側でも今から周到な協議と連携を絶やさないことが必要だ。
バナー写真:米国のトランプ1次政権の際、大統領補佐官に指名されてトランプ大統領と握手するキース・ケロッグ氏=2017年2月。ケロッグ氏は、2次政権ではウクライナ・ロシア担当特使に就任する。(AFP=時事)
(※1) ^ 「米国の国家防衛戦略2018年版」(2018 National Defense Strategy)p.2.
(※2) ^ An America First Approach to U.S. National Security, AFPI, May 9, 2024.
(※3) ^ “Trump Is Recruiting a Team of China Hawks. So Why Is Beijing Relieved?” By Lingling Wei, The Wall Street Journal, Nov. 13, 2024.