欧州もアジアも「もしトラ」シフトの連携強化:米の「孤立主義」回帰を恐れ

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米大統領にトランプ前大統領が返り咲く事態に備えて、欧州やアジアで同盟・パートナー諸国が連携や協調を深める動きが進んでいる。「トランプ2.0政権」になれば、米国がグローバルな指導力を放棄して孤立主義的な外交に逆戻りする恐れがあるためだ。

米国に頼らぬウクライナ支援

7月上旬にワシントンで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議では、「もしトラ」が隠れた主要議題となった。その対応として、第1にバイデン政権がひねり出したのは、ウクライナへの訓練や武器援助を含む長期的な安全保障支援の枠組みとなる「ウクライナ・コンパクト」の創設だ。この構想にNATOと欧州連合(EU)の主要国に日本を加えた26カ国が参加を決めた。ウクライナ支援に後ろ向きで知られるトランプ氏が復権しても継続して支援を行うことを目的としている。

トランプ氏が副大統領候補に指名したバンス米上院議員は「ウクライナ領の一部をロシアに与えて戦争を終結すべきだ」などと公言している。トランプ政権になれば、ウクライナは支援を打ち切られる上に、不本意な停戦条件まで押し付けられる恐れが強い。

このためコンパクトでは、ウクライナに対して(1)2030年代までを見通した多国間支援の継続、(2)EUによる軍事支援の提供、(3)参加国の防衛閣僚会合を通じた支援──などを申し合わせた。また、現在の戦闘が終結したとしても、ロシアの再侵略に備えてウクライナ軍の能力向上を続け、NATO、EUへの加盟支援も多国間で行っていく内容となっている。

第2に、駐独米軍基地内にNATO独自の新司令部(要員700人)を新設し、キーウにNATO高官を派遣することも決まった。ウクライナ軍の訓練や装備配布の実務作業はこれまで主として米国が担っていたが、これを徐々にNATOへ移管していく狙いがある(※1)

連携を深めつつあるのは欧州諸国だけではない。首脳会議に「インド太平洋パートナー」(IP4)として参加した日韓、オーストラリア、ニュージーランドの4カ国は、ウクライナのゼレンスキー大統領を交えた5カ国首脳会談を開き、「ウクライナ問題は欧州だけでなく、インド太平洋を含む世界の問題」(岸田文雄首相、7月11日)との認識を踏まえて、継続して協力していくことを確認した。IP4首脳はバイデン大統領とも会談し、ロシアと北朝鮮の軍事協力を「重大な懸念」として、さらに連携を進めることで一致した。

インド太平洋でも連携

インド太平洋では、中国を念頭に置いた動きが活発だ。米国のブリンケン国務長官とオースティン国防長官は7月28日、東京で外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)を開いたのに続き、30日にはマニラへ移動してフィリピン政府とも外務・防衛閣僚会合(2プラス2)を行った。

この間の同29日には、東京でブリンケン長官、日本の上川陽子外相、オーストラリアのウォン外相、インドのジャイシャンカル外相による日米豪印4カ国の戦略対話枠組み「クアッド(Quad)」の外相会合が開かれ、南シナ海の「中国の威圧的で脅迫的な行動」を名指しで批判する共同声明を発表した。

中国とフィリピンの間では、南シナ海のアユンギン礁(中国名・仁愛礁)を巡る緊張が高まっており、今年4月には日米、フィリピンによる初の3カ国首脳会談が米国で開かれた。5月にはオーストラリアも参加した日米豪比4カ国の国防・防衛相会合を開いて対応を協議していた。

フィリピン北部と台湾本島は約100キロしか離れておらず、中比紛争の行方は台湾の安全にも密接に関わる。これらの多国間協力は中国の覇権主義的行動を牽制する有効な対抗策だ。米比2プラス2では、フィリピン軍の装備充実などに向けて米国が5億ドル(770億円)の支援を約束した。8月6日には、米国で米豪2プラス2も開かれた。

日米韓協力の制度化

バイデン政権下で日米韓3カ国の戦略的連携が大きく前進したことも見逃せない。きっかけは昨年夏、バイデン大統領が日韓首脳を米キャンプデービッドに招いて初の日米韓首脳会談を開いたことだった。これまで米韓同盟が北朝鮮対応に事実上特化していた状況を改め、日米韓がそろって安保協力をインド太平洋全域にシフトし、中国にも対応していくことになった。

これを受けて、今回の日米2プラス2と同じ7月28日には、木原稔防衛相、オースティン国防長官、韓国の申源湜国防相による日米韓防衛相会談が日本の防衛省で開かれた。3カ国会談の眼目は、こうした連携の流れがトランプ政権になっても失われないようにすることにあったといってよい。会談では、日米韓の共同訓練や閣僚会合の定例化を目指す覚書に署名し、「3カ国の安全保障協力を制度化する」と明記した共同声明を発表した。

微妙な課題も

一方、日米同盟の強化については微妙な課題も残されている。日米2プラス2では、4月の日米首脳会談の成果を踏まえて、自衛隊と米軍の指揮統制枠組みの向上や見直しについて話し合われた。日本の陸海空3自衛隊を束ねる「統合作戦司令部」が今年度末に創設されるのに合わせて、米国が在日米軍を再編して「統合軍司令部」を日本に新設する意向が日米共同文書に明記された(※2)

いずれも有事などに備えて日米連携を強化する狙いだが、指揮統制面の過度な連携が進めば、「日米が一体化して、自衛隊の指揮権の独立性が保てなくなる」との懸念が野党などから上がっている。米韓同盟では、有事の作戦統制権が米軍に委ねられ、韓国軍がその指揮下に置かれる仕組みだが、米韓と異なり、日本では憲法の制約などから自衛隊の指揮権を他国に委ねることは許されていない。

この点は米政権がどう変わっても堅持する必要があり、日本の独自性を担保しつつ連携を強化する工夫が求められている。

バナー写真:日米豪印の枠組み「クアッド」外相会合後の共同記者発表を終えた(左から)インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相、オーストラリアのペニー・ウォン外相、上川陽子外相、米国のアントニー・ブリンケン国務長官=2024年7月29日、東京都港区の外務省飯倉公館(時事)

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