岸田首相はいつ解散するのか:支持率急落で「伝家の宝刀」を抜けるか
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支持率は「いずれ上がる」と首相
毎日新聞が7月22、23両日に実施した世論調査によると、岸田内閣の支持率は28%で、6月調査から5ポイント下落して3割を切った。下落は2カ月連続で、この間に17ポイントも下がったことになる。
この結果が報道される2日前だった。岸田氏は自民党の遠藤利明総務会長と首相官邸で会った際、こう語ったという。
「(支持率は)上がったり下がったりするものだ。いずれ上がる」
自分に言い聞かせているようでもあり、強がりとも受け取れる言葉だった。
岸田氏には、5月に地元・広島で開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)直後の世論調査で支持率が大幅にアップした「成功体験」がある。
首相周辺によれば、岸田氏は北大西洋条約機構(NATO)首脳会議への出席を皮切りに、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールの中東3国への歴訪と続いた今回の外国訪問も「支持率上昇につながるのではないか」と期待していたという。
確かに首相が外遊すれば、新聞やテレビは連日、大きく報道し、首相への国民の注目度は上がる。ところが今回は、日本各地が大雨の被害に見舞われる中での外遊だ。当然、マスコミの報道は被害関連のニュースが中心となる。一部では「この時期に国内を離れるのはいかがなものか」といった批判も呼ぶ結果となった。
今回は、いずれも意味のある外交日程だったと筆者は考えている。ただし、政治家にとっては「運」や「めぐり合わせ」も、その命運を握る重要な要素である。得意分野だと自認する「外交」という数少ないカードが効果をもたらさず、支持率低下がさらに続いているのは、岸田氏には大きな痛手だったと思われる。
マイナカード問題で責任転嫁の連鎖
広島サミットで急上昇した支持率が一転して低落した最大の要因は、言うまでもなくマイナンバーカードをめぐる混乱である。
マイナカードに別の人の情報が登録されていたり、マイナポイントが別の人に付いていたり……。全国各地で発覚するトラブルは今も後を絶たない。深刻な事態だと判断した政府の個人情報保護委員会が、マイナンバー法に基づいてデジタル庁への立ち入り検査を始めたのは前代未聞と言っていい。
しかも、岸田氏は「秋までに総点検する」と慌てて表明したものの、むしろ、目につくのは、マイナカードの旗振り役である河野太郎デジタル担当相の責任逃れの姿勢だ。
河野氏は、菅義偉前政権で新型コロナのワクチン接種を進めた経験がある。岸田氏は、彼の「突破力」に期待したのだろう。ところが河野氏は、現場の人為的ミスやシステム会社の不備を強調するばかりで、失敗を謙虚に認めようとしない。6月の講演では「マイナンバー制度は民主党政権がつくった制度だ。『おまえが始めたんだろ』と言い返したくもなる」と愚痴をこぼす場面まであった。
一方の岸田氏は、ほとんど河野氏に任せっ切りで、この問題に関する国会の閉会中審査に出席しようとしなかった。そして自民党の茂木敏充幹事長もマイナカード問題に言及することはほとんどない。
筆者はこれを「責任転嫁の連鎖」と呼んでいる。こんな政権全体の姿勢が一段と国民の信頼を損ねていると言うほかない。
案の定、自民党議員の間からは「やはり、広島サミット直後、内閣支持率が上がったところで、衆院解散に踏み切るべきだった」という声が漏れ始めている。
岸田氏は解散の絶好のタイミングを逸したというのである。
内閣改造後の解散も困難か
岸田氏も危機感を募らせているはずだ。
7月21日、栃木県足利市の障害者支援施設を視察したのを皮切りに、少子化対策をはじめ、政権が重視するテーマで車座集会を開く地方行脚をスタートさせた。自民党総裁選で再三アピールした「聞く力」の発揮という原点に立ち返るということなのだろう。
それ以上に政権浮揚策として期待しているのが、9月中旬にも行うという内閣改造と自民党役員人事である。
6月に衆院解散を見送った際には、「内閣改造した上で、9月に臨時国会を開いて衆院を解散する」という日程が最も有力だと言われたものだ。何しろ首相になる数年前、出演した報道番組で司会者から「首相になったら一番、何をしたいか」と質問されて、「人事です」とあっけらかんと答えた岸田氏である。既にあれこれ、人事案を検討しているに違いない。
岸田氏は「改造後に解散」という筋書きを依然として捨てていないと思われる。ただし、内閣改造が支持率アップにどこまで結びつくかは、全く不透明だ。
焦点となっているのは、まさに先に記した河野氏を続投させるかどうかである。交代させた方がいいと筆者も思う。だが、ここで河野氏を交代させれば、マイナカードの失敗を明確に認めることになってしまう。岸田氏にとっては河野氏というマイナカード問題への「批判の弾除け」がいなくなるということである。何より、次期自民党総裁候補の一人であるライバルの河野氏が閣外に出た場合、岸田氏への不満や批判を含めて、言いたい放題の発言が飛び出す不安もある。
党役員人事では、これも次期総裁への意欲を示す茂木幹事長の処遇が注目点となる。岸田氏は、公明党と選挙協力をめぐってぎくしゃくしているのは、茂木氏が公明党との調整を怠ったからだと不満を抱いているという。
しかし、岸田政権を自民党内で支えているのは、岸田氏が率いる岸田派と、麻生太郎副総裁の麻生派、そして茂木氏が会長を務める茂木派の3派だ。仮に茂木氏を重要閣僚に起用して処遇したとしても、党ナンバー2である幹事長を外された茂木氏には不満が残り、政権のバランスが崩れる恐れがある。
党内では同じ茂木派の小渕優子氏を幹事長に抜てきするサプライズ人事がささやかれているが、これまた茂木派内に軋轢(あつれき)を生む可能性は大きい。「そもそも小渕氏の起用がどこまで国民に注目されるのか。サプライズ人事という方法自体に国民は飽きがきているのではないか」と懐疑的な見方もあるのだ。
内閣改造が衆院解散の弾みになるとは、決して言い切れない。
崩れつつある総裁再選シナリオ
おさらいしておこう。岸田氏が政権を継続していくうえで、最も重視しているのは、来年秋の自民党総裁選である。そこで、無投票で再選、もしくは有力候補が出馬せずに無風状態で再選を果たす――というのが一番望ましいシナリオである。
亡くなった自民党の竹下亘・元総務会長が生前、「自民党というところは、衆参両院の選挙で負けない限り、総理・総裁は交代させられないのだ」と生前、筆者に語っていたのを思い出す。岸田氏もそれが分かっているから、「来秋の総裁選前に衆院選を行い、そこで勝利すること」が目的となる。
しかし、仮に秋の内閣改造で再び支持率が大きく上昇しなければ、いよいよ打つ手がなくなる。自民党のベテラン議員の一人は「最近の世論調査を見ると、来秋の総裁選まで解散できない可能性が出てきた。そうなれば、直ちに『岸田降ろし』に発展しないまでも、総裁選の様相はガラリと変わってくる」と筆者に語った。
「解散権」をもてあそんだツケ
ご存じの通り、岸田氏は先の通常国会で自ら衆院解散をほのめかした。結果的には見送ったものの、野党は解散に浮足立ち、国会終盤は大きな抵抗もなく、防衛費増額を裏付ける財源確保法などがすんなりと成立した。その直後、岸田氏は高揚した表情で、「解散権という首相だけの特権を、目いっぱい使わせてもらった」と周辺に語ったそうだ。
「解散権」をもてあそんだツケが今、回ってきていると見るべきだろう。
考えてみれば、時の首相や与党の勝手な都合で衆院が解散されることに、マスコミも、あえて言えば国民も慣らされ過ぎた。「解散は首相の専権事項」と議員やマスコミも当たり前のように口にするが、そんなことは憲法や国会法のどこにも明記されていない。
憲法を素直に読めば、やはり内閣不信任案が可決(あるいは信任案が否決)された時に衆院を解散するのが原則であり、少なくとも、本当に国民に信を問うべきテーマが出てきた時に絞るべきだろう。
そして、今のように「大義なき解散」が常態化していることも国民の政治離れ、選挙離れ(=低投票率)を加速しているのではなかろうか。
岸田氏は、総選挙のあるべき姿とは何か、に立ち返って考えて解散時期を熟慮するのであれば、ここしばらくの「検討時間」も意味あるものになる――。筆者は今、そう考えている。
バナー写真:マイナンバー情報総点検本部の初会合で発言する岸田文雄首相(右端)。同2人目は河野太郎デジタル相=6月21日、首相官邸で(時事)