中央アジアにおけるロシアの軍事プレゼンスとアフガニスタン情勢のインパクト
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旧ソ連の中央アジア5カ国のうち、ロシアと正式に軍事同盟を結んでいるのは、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの3カ国である。各国はそれぞれ個別にロシアとの安全保障協定を締結しているほか、集団安全保障条約機構(CSTO、このほかにベラルーシとアルメニアが加盟)と呼ばれる軍事同盟にも加盟している。したがって、軍事面で見た場合にロシアと最も緊密な関係にあるのは、この3カ国ということになろう。実際、ロシアが平時から中央アジアに展開させている軍事プレゼンスは、この3カ国に集中している。
タジキスタン
数の上で最も大規模なのは、タジキスタンに駐留する第201ロシア軍事拠点(201RVB)である。ここでいう「軍事拠点」というのは具体的な基地や駐屯地のことではなく、ある国に駐留するロシア軍部隊をまとめた概念であり、201RVBの場合は兵力約5000人、戦車約40両、装甲車約180両、ヘリコプター1個飛行隊などで構成される。決して大軍というわけではないが、タジキスタン自身の軍隊が総兵力わずか8800人に過ぎないことを考えると、装備と訓練の整ったロシア軍5000人というのはそれなりの軍事プレゼンスと言える。
また、タジキスタンには、ロシア航空宇宙軍(VKS)が運用する天体望遠鏡施設「アクノー(窓)」がある。外国の軍事衛星を観測してカタログ化し、いつ、どの軌道にどんな衛星が飛んでいるのかを把握できるようにするための施設であり、いわゆる宇宙状況監視(SSA)能力の一翼を担う。ソ連で最も晴天率が高く、空気の澄んだ場所を探した結果、タジキスタンのヌレク高地が選ばれたとされているが、ロシアの軍事プレンスはこうした意外な部分にも及んでいる。
キルギス
キルギス北部のカント市近郊には、ロシア航空宇宙軍の第999航空基地(999AB)が置かれている。普段はSu-25攻撃機1個飛行隊(約12機)と小規模なヘリコプター部隊が置かれているだけだが、中央アジア方面での大演習時にはロシア本土から大規模な航空部隊が展開するなど、ロシアの軍事プレゼンスを下支えする役割を持つ。
なお、ソ連時代のアフガニスタン侵攻ではウズベキスタンのハナバード航空基地がこの役割を担ったが、現在のウズベキスタンはロシアとの軍事協力には消極的である(後述)。したがって、中央アジアで大規模な軍事作戦を行うような場合には、カントが航空作戦の拠点となろう。実際、2021年にアフガニスタンのガニ政権が崩壊した際には、ロシアはカントとカブール空港の間で輸送機をピストン飛行させ、ロシアとCSTO加盟国の国民511人を脱出させた。
内陸国であるにもかかわらず、キルギスにはロシア海軍の施設も設置されている。潜水艦との通信を行うための超長波(VLS)通信タワー(チャルドバル)と魚雷試験場(イシク・クル湖)がそれであり、このほかには核実験を監視するための地震計施設(マイルー・スー)もある。ロシアはこれら4施設をまとめて在キルギス・ロシア軍として租借料を支払っており、その年間額は450万ドルとされる。
カザフスタン
カザフスタンにはロシア軍の実戦部隊は駐留していない。しかし、同国東部のバルハシには弾道ミサイル警戒レーダーが置かれているほか、サリ・シャガン演習場はロシア軍のミサイル訓練・実験施設として使用されている。バイコヌールのロケット打ち上げ施設もかつてはロシア軍宇宙部隊が管轄していたが、2009年には連邦宇宙局(ロスコスモス)に移管された。これ以外にはセミパラチンスクに核実験場が置かれており、1949年に行われたソ連初の原爆実験以降、1989年までに実に456回もの核実験が行われたが、1991年には閉鎖された。
CSTOの枠組みにおける軍事協力
以上3カ国は、CSTOの枠組みにおいてロシアとの合同部隊を編成している。その第一は2001年に設立が決定された中央アジア地域合同緊急展開部隊(KSBR TsAR)であり、タジキスタン駐留ロシア軍(201RVB)所属の5個大隊、カザフスタン及びタジキスタンの各2個大隊、キルギスの1個大隊の計10個大隊(約5000人)によって構成される。大規模テロや過激主義組織の武装蜂起に対処したり、合同で侵略を撃退したりすることがその目的だ。
第二に、2009年に設立された合同機動対処部隊(KSOR)がある。ロシア本土に駐屯する空挺部隊(1個空挺師団及び1個空中機動旅団)とカザフスタン軍(1個空中機動旅団及び1個海軍歩兵大隊)を中心とし、これに残りの加盟国から供出される各1個大隊の計2万人で構成される。
第三に、KSORと同じ2009年にはCSTO合同平和維持部隊が設置された。これは各加盟国軍の平和維持部隊(ロシア軍の場合は中央軍管区の第15旅団)で構成されることになっているが、平時から常設の合同部隊が存在するわけではない。
第四に、中央アジア地域集団軍と呼ばれる枠組みがある。これは大規模な侵略を受けた場合にロシア軍中央軍管区が中心となって中央アジア3カ国の軍を統合運用するというものであるが、あくまでも大規模戦争の勃発を想定した枠組みであって、やはり平時には実態を持たない。
まとめるならば、CSTOの下で平時から存在しているのはKSBR TsARとKSORのみということになるが、これも問題が多い。そもそも中央アジア諸国が特定の外国から大規模侵略を受ける可能性は高いとは言えず、したがってCSTOの結束力はお世辞にも強固なものとは言えないためである。
中央アジア諸国にしてみれば、欧州方面やカフカス方面での紛争(ロシアとウクライナの紛争、アルメニアとアゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフ紛争など)は自国の安全保障とは全く無縁の事態であり、余計な紛争に巻き込まれないためにはCSTOと距離をとっておきたいというのが本音であろう。これは欧州部のベラルーシやカフカスのアルメニアにとっても同様であって、実際、これらの国々は地域を超えて大規模な合同軍事演習を行っていない。さらに、2021年に発生したキルギスとタジキスタンの国境紛争のように、CSTO内には加盟国同士の対立関係も存在する。
したがって、CSTOとはロシアが旧ソ連諸国への軍事的影響力を確保しておくための装置であって、特定の脅威に合同で対処するための(西側的な理解でいう)「同盟」とは大きく異なったものと考えたほうがよいだろう。2010年のキルギス政変の際、当時のオトゥンバエワ政権がCSTOの介入を求めたにもかかわらず、ロシアがこれを拒否したことは、こうした見方を裏付ける。
また、CSTOには、ウズベキスタンとトルクメニスタンが加盟していない。後者は独立以来、「永世中立」を宣言していかなる軍事同盟にも加盟することを拒否しており、前者については過去に二度、CSTOへの加盟と脱退を繰り返している。特に中央アジア最大の人口大国であるウズベキスタンは、カザフスタンを戦略的ライバルと見なし、CSTO加盟当時から合同演習にも参加しないなど「問題児」として知られていた。
CSTO非加盟国を含めて、ロシアは中央アジア諸国に対する最大の武器供与国であり、軍人の教育や訓練といったソフト面でも依然として大きな影響力を持つ。特にCSTO加盟国は利益率を低く抑えた友好国価格でロシア製兵器を購入する権利を有しており、経済力に乏しいキルギスやタジキスタンにとっては、軍事的後ろ盾としてのロシアの存在感は小さくない。しかし、近年では中国がこれら諸国に武器を輸出したり、場合によっては無償で供与したりしていることから、こうした面でもロシアの存在感は脅かされている。
アフガニスタン情勢のインパクトは?
ロシアと中央アジア諸国が軍事面で利害を一致させられそうな分野としては、アフガニスタン情勢がある。タリバン自身は、旧ソ連諸国に手出ししないことを2021年7月にロシアと約束しているものの、それ以外の過激派勢力がアフガニスタンを根城として武装闘争を展開する可能性は排除できないためである。実際、1999年から2000年に掛けてはウズベキスタン・イスラム運動(IMU)がアフガニスタンを拠点にフェルガナ盆地(キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンの国境が入り組んだ地域)の一部を実効支配したこともあり、こうした事態ではロシアと中央アジア諸国が協力することは想定しうる。
2021年にタリバンがアフガニスタンの権力を再掌握した直後、ウズベキスタンが久しぶりにロシア及びタジキスタンとの合同演習に応じたことは、そのような可能性を予見させるものではあった。
ただ、だからといってウズベキスタンのCSTO再々加盟は今のところ持ち上がっておらず、CSTOの合同部隊をこれ以上拡充させるという話も聞かれない。このようにしてみるならば、ロシアは中央アジアにおける最大の軍事的プレイヤーではあるが、そのプレゼンスは絶対的なものではなくなっている、ということになろう。
バナー写真:タジキスタンのアフガニスタン国境近くで合同演習を行う集団安全保障条約機構(CSTO)加盟国の兵士ら=2021年10月20日(新華社=共同)