京の竹工芸:小倉智恵美が編む繊細優美な世界
Guideto Japan
・モダンで洗練されたアクセサリーも話題
・1ミリ以下の細さを極める、こだわりの竹ひご作り
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レースのようにかれんな竹細工
縄文時代から生活道具として用いられてきたほど身近で、しなやかで強靱(きょうじん)。その上、60日間で約15メートルに育つほど成長が早く、伐採しても自然環境に与える影響が少ない。そんな竹の魅力に引かれ、京都で竹工芸作家として活動する小倉智恵美さん。
建材から楽器、武具など竹工芸には多彩なジャンルがあるが、丸竹を細く割って作る竹ひごを編み、造形物を生み出す「編組(へんそ)」が彼女の専門だ。100種類以上の編み方があり、農家の人々が冬の農閑期に作るような素朴なざるや収穫籠から、茶道や華道で用いられる優美な花籠までさまざまな物を作ることができる。
得意とするのは、竹ひごを使って描き出す繊細な模様。農具などに使われる素朴な「六つ目編み」をベースに、糸のように細い竹ひごをレース刺しゅうのように挿し、牡丹(ぼたん)や菊などの緻密な花柄を生み出していく。
「幼い頃から花や植物が大好きでした。しなやかな竹に、自然のやさしさや繊細さを感じさせるデザインを乗せて届けたいと思っています」と話す小倉さん。
繊細な彼女の作品は、編み目が1ミリずれるだけでフォルムや印象が大きく変わってしまうため、呼吸を整えて集中しながら編んでいく。
「現代の人々にも竹細工の美しさを伝えたい」と、デザイナーのアドバイスを受けながら制作したバングルや指輪は、小倉さんの名が広く知られるきっかけとなった作品。モダンで洗練されたフォルムや色彩、精緻に編み込まれた竹の美しさが目を引く。牡丹、月桂(げっけい)樹、松と自然の造形をモチーフにしているのも自然を愛する彼女らしい。
磁器と竹を融合させた斬新な作品もある。京都の女性磁器作家とコラボレートし、優美な菊の花を表現したものだ。2人の女性のみずみずしい感性と、工芸の都・京都ならではの緻密な技巧のたまものである。
1本1本、極限までこだわる竹ひご作り
「地下茎(ちかけい)でつながる竹全体の寿命は60〜120年と言われますが、制作に適しているのは樹齢3〜5年の若い竹。しなやかで加工に適しているんです」(小倉さん)
そう語りながら、工房で竹を割り、細いひごを作る工程を見せてくれた。まずは竹を鉈(なた)で割っていく作業から。竹は中空になっているので、繊維に沿って刃を入れるとスパッと割れる。
使用する竹は、青竹(真竹)・黒竹・白竹の3種類。どれも京都または近郊の産地の竹にこだわっているそうだ。
「京都は年間の寒暖差が激しいため、肉厚で身が締まった美しい竹が育ちます。白竹(しらたけ)は、竹職人が青竹を火で炙(あぶ)ったり、苛性ソーダで煮たりしながら油を抜いて仕上げた物で、これ自体が工芸品といえる存在。この上品な白さと艶(つや)は、京都ならではです」
細かく竹を割った後も、青竹の皮をそぎ、面取りで角をなめらかにする作業が続く。さらに刃物を使って、ひごの幅と厚みを極限までそろえていく。出来上がった竹ひごは、どれも角がなくすべやか。この材料へのこだわりこそが、繊細な柄や形を生み出す土台となるのだ。
今年で独立して9年目を迎える小倉さん。唯一無二の作品が評価され、2018年5〜7月は、アメリカ・ポートランドで開催中のグループ展に参加している。そんな彼女が自らつけた屋号は「京竹籠 花こころ」。この名には、自分が目指す心のありようを込めていると笑顔で語る。
「毎日ものづくりをしていると、時々自分の迷いやあせりが作品に出てしまうことがあります。余計なことを考えず、ただいちずに咲くことだけに懸命な野の花のように。そんな気持ちで挑んでいきたいと思っています」
京竹籠 花こころ
https://www.facebook.com/kyotakekago.hanakokoro/
取材・文=山口 紀子
写真=山崎 純敬