【全身詩人】吉増剛造 ライカ北紀行 ―函館― 第74回
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評論家で詩人の吉本隆明によれば、現代日本を代表する三詩人といえば、田村隆一、谷川俊太郎、そして吉増剛造なのだという。
2018年秋、吉増剛造の1200ページを超える新著『火ノ刺繍』(響文社)刊行を記念したイベント「詩人吉増剛造の旅」が函館でひらかれた。
その冒頭、久しぶりに空からみた函館は、地形も平たんな札幌と異なり、海にかこまれ変化に富んでわくわくしたと吉増。むかし、石川啄木が散策し、『一握の砂』に所収された歌を詠んだとされる大森浜の砂に裸足で踏みいれ、啄木を感じたという。
その吉増が目隠ししてあざやかな色の絵具を筆からぽとぽと紙にたらす。ハンガーの洗濯バサミに靴下やら赤いほおずきやらをぶら下げ、それを振りまわす。また、割り箸みたいな棒を髪の毛に突っこんで、なにやら熱く語る。これって詩を詠むことなのか。全身詩人ってこのことなのか。
2時間ほど話は続くも、誰も席をたつ人はおらず、何かに憑(つ)かれてしまったかのよう。僕は、正直にいえば、何がなんだか分からなかった。カンヴァスのうえに絵具をダイナミックにまき散らすニューヨークの抽象画家、ジャクソン・ポロックを思い出していたのだ。
吉増のすべての営みが詩人の表れであって、本人がいう全身詩人となるのか。作品は難解だが人の心をゆさぶるポエジーとか、「何か」がある。さらに、自然体でひょうひょうとした人柄が人を惹きつける。
話が終わってすぐさま、詩人に聞いた。あの洗濯バサミやら筆のぽとぽと、あれはなんですか、と。彼いわく、大道芸人の小道具だよ……。