【イカ刺し】ライカ北紀行 ―函館― 第64回

老舗「前鮮魚店」の店頭には、生きた北寄貝、ツブ貝、海老などの生簀(いけす)がところ狭しと並んでいる。プロの間でもここに来れば「旬が分かる」と評判だ。旬のなかでも一番ものを競ってもとめる職人も多いとか。魚の目利きはどうするのか? 4代目社長の前さんに素人丸出しで尋ねたところ、魚の顔、体つきを一目みれば分かる。魚屋40年だから、と。

板前などのプロが通う前鮮魚店(2021)
板前などのプロが通う前鮮魚店(2021)

市場に一歩足をふみいれると、看板に「毛ガニ専門」、「新巻のたかはし」などとあり、店ごとの得意な魚が一目で分かる。

創業75年新巻のたかはしの北洋の紅鮭(2021)
創業75年新巻のたかはしの北洋の紅鮭(2021)

鮮魚店、青果店がおよそ40店、魚介類を主に専門性が高い品揃えで、板前や寿司職人などプロ御用達の市場として名高い。もちろん、地元の住民にも観光客にも人気だ。

1945(昭和20)年、戦後の食糧不足のころ、函館の近郊、遠くは青森からヤミ米、野菜、魚などがもちこまれ、地べたで売る青空のヤミ市場「はこだて自由市場」が産声をあげた。函館駅から徒歩10分ほど、駅前大門の繁華街からも近い。

6年後、そのちかくに市場の建物ができ、港町の盛衰とともに時を刻んできた。だが、25年ほどまえ、なんと大晦日に市場は全焼、その逆境をのりこえ80年ちかく市民の台所として親しまれている。

はこだて自由市場(2021)
はこだて自由市場(2021)

函館名物のイカだけを商う「富田鮮魚店」は創業60年あまり。この道50年のおばあちゃんが目利きした、生きているこげ茶のイカを刺身にさばいてもらった。あめ色にすきとおり、こりこり感がたまらない。しょうが、うす口醤油、ほかほかのご飯をおともに、ああ、しあわせ。

僕が好んで通うカウンター4席だけの「すし雅」。イカ、ほっき、中トロ……とお好みをたのんだら、職人歴20年の坂東さんがついと姿をけし、北寄貝一個を手にあっという間にもどってきた。

すしネタは、市場が商う魚介類で新鮮なうえに美味い。しかも、時には回転ずしほどの値段、抜群のコスパだ。持ちこみネタもこころよく握ってくれる。

富田鮮魚店のイカ一筋50年のおばあちゃん(2021)
富田鮮魚店のイカ一筋50年のおばあちゃん(2021)

●道案内
はこだて自由市場 市電「函館駅前」下車、徒歩10分(地図へ

「ライカ北紀行 —函館—」作品一覧はこちら

観光 北海道 ライカ北紀行 函館 はこだて自由市場