【お堀のヴァイオリン】五稜郭公園 ライカ北紀行 —函館— 第50回
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ここは、ヘンデルが「水上の音楽」を演奏した英国のテムズ河でもなければ、平安貴族が舟遊びを楽しんだ京都の大沢池でもない。
ここは、僕がガキのころ、橋の上からとびこんで遊んだ五稜郭公園のお堀なのだ。ヴァイオリンの音色がひびき、ギターの弾き語り、ソプラノの高く澄んだ歌声が、舞台のボートから響きわたった。さらに、バラードをつま弾く津軽三味線、函館の今と昔を語るに語る講談……。
2020年夏、コロナショックで生の演奏に飢えていたアーティストと、お堀をかこんだ市民、観光客が、密をさけて思いきりライブを楽しんだ。名付けて「モーツ・アート(Moaťs Art)」。モート(moat)とは、城などに巡らされたお堀のことで、それにアートを組み合わせた。アーティストがボートに乗って演奏するどこにもない舞台表現だ。
毎年夏におこなわれてきた「はこだて国際民俗芸術祭」、「函館野外劇」などのイベントが、軒並み断念を余儀なくされた。そこで、既成概念をこえた、密にならない企画が浮上。多くの応援のもと、内外のアーティストが参加し、この暑い夏に開催された。
先導する手漕ぎボートが、アーティスト、動画撮影係、さらに機材を乗せたボートを曳く。ときには、2台連ねて引っ張ることもある。追い風だけでない、向かい風もある。漕ぎ手には腕力とオールさばきが求められる。20回ほどのイベントの全てをたった一人で先導したのは、英国人のイアン・フランク。縁の下の力持ちで、今回のイベントの仕掛け人の一人でもある。
函館に住んで20年となるイアンは、大学でAI(人工知能)を教えている。長身で腕が太く、学生のころはボート部の選手だったとか。オールさばきに水音もしなかった。
●道案内
五稜郭公園 市電「五稜郭公園前」下車、徒歩10分(地図へ)