【雲間の月】ピアノ協奏曲第27番 ライカ北紀行 —函館— 第31回
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函館山の頂から対岸・下北半島の澄みわたった夜空を見あげると、満月がのぼっていた。
この満ちた月は、モーツァルトでいえば、ピアノ協奏曲第27番・第1楽章アレグロ。百花爛漫の美しさ。
ほどなく帯状の雲が流れて月が見え隠れ。これもなかなか風情がある。
「月も雲間のなきは嫌にて候」。これは、室町時代の茶人、わび茶の始祖といわれる村田珠光の言葉。満月でこうこうと輝いている月よりも雲がかかって見え隠れしているほうが味わい深い。「完全な美より不完全な美、足りない美がよい」。 これぞ、茶の湯の美意識と珠光は語っている。
この雲間の月は、僕が好きな第2楽章ラルゲットのひびき。モーツァルト弾きとして名高い、ウィーン生れのイングリット・ヘブラーのピアノは、透明な叙情美を湛える。雲間の月から凪いだ海峡に淡い光のごとくピアノがこぼれる。
ある朝、雲間から陽が海峡にふりそそいでいた。妖美かがやくばかりの第3楽章アレグロ。
ピアノ協奏曲第27番。モーツァルトは死をむかえる最晩年、その日のパンに追われる貧困、自身と妻の病、そのうえに幼い子供をかかえるなかでこの至宝を生んだ。天国の門に立つ作品と評される。
●道案内
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