山田宗正住職:大徳寺真珠庵「襖絵プロジェクト」絵師紹介(番外編)
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仕事を遊びに変える才能
春の息吹が種まきの時期を知らせ、初夏の風は台風に備えて畑に支柱を立てよと告げる。太陽が肌をじりじり焼くようになれば、500年以上も前から同じ製法で代々引き継がれてきた保存食「大徳寺納豆」の仕込み開始の合図だ。
季節の移ろいを見逃さず、先手を打ちながら自然と調和した生活を営む。寺の暮しの大きな魅力だ。畑にたわわに実る野菜は、台風にも大雨にもビクともすることなく、住職の目論見通りに収穫の時期を迎え、寺の食卓を彩ってくれる。1年を通じた住職の作務の計画は無駄一つなく合理的で、真珠庵の長い歴史の中で積み重ねられてきた先人の知恵が結晶している。
居候として間近で生活する書生の目には、住職は「遊びのプロフェッショナル」に映る。住職の手にかかればどんな「仕事」も「遊び」に見えるから不思議だ。生活そのものが実にクリエイティブなのだ。庭掃除も、畑仕事も真珠庵というキャンバスに毎日描かかれる作品に見えてしまう。退屈なルーティンですら、創造的な遊びに変えてしまう才能は、生まれながらのクリエーターの証しかもしれない。
「まき積みだってアート」
筆者が単調なまき積み作業にうんざりしていたのを、住職はお見通しだったのだろう。通りすがりにボソっとつぶやいた一言が突き刺さった。その一言で景色が変わって見えるのだから不思議だ。日が暮れるまで試行錯誤しながら積み上げたまきの山を見上げた時、心地よい達成感に満たされた。
「7人目」の絵師
漫画家やアニメ監督、ゲームのアートディレクターが絵師となる襖絵プロジェクトが始まった当初は、「由緒ある寺でふざけたことをするな」「仏さまを冒とくするのか」と厳しい批判も少なからずあったという。
「重要文化財を守り、次世代に伝える」ことは、歴史と由緒ある寺社仏閣にとっては逃れることができない責務だ。形あるものは、どんなに大切に扱っても、経年劣化する宿命にある。その修復費用をいかに捻出するかは、真珠庵のみならず、多くの寺の住職にとっては頭痛のタネであろう。官民の補助金を申請し、檀家や拝観者に寄付を求めて頭を下げる、地味で骨の折れる仕事に違いない。それを、前代未聞のド派手なイベントに変えてしまった住職は、超一流のクリエーターにして天才的プロデューサーでもある。
襖絵プロジェクトは修復費の確保を建前にしながら、どうせカネを出すならば、ワクワクしながら財布を開いてもらいたい。せっかくなら、「禅」や「寺」などに縁も興味もなかった人にも足を運んでもらいたい。ともすれば、「古臭い」「敷居が高い」と思われている場所を、刺激的な空間にガラリと変えてしまおうという茶目っけにあふれている。型破りではちゃめちゃなようでいて、全ては、真珠庵が長年守ってきた宝をさらに次の世代へと引き継いでいくことに帰結する。
「一休さんが見たら、どんなこと言うでしょうね」と聞くと、「遊んでいる暇があったらもっと庭掃除せいとどやされるかもしれないけど、襖絵は案外気に入ってくれるんじゃないでしょうかね」と住職はニタリ。
襖絵の一般公開が始まれば、これまで真珠庵が迎え入れたことがないような人たちが、数多くやってくるだろう。アニメファンやゲームマニアは襖絵が目当てであって、真珠庵の庭園にも、茶室にも興味はないかもしれない。しかし、7人目の絵師にして、最強のクリエーターが、せっかく真珠庵を訪れた人たちをそのまま帰すはずはない。
6人の現代絵師の創作を見守ってきた7人目の絵師が、最後に真珠庵をキャンバスにどんな傑作を描くのか。筆者もワクワクしながら待っている。
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写真:京都春秋、角田龍一、ニッポンドットコム編集部
(バナー写真:熱唱する自分の姿が描かれた北見さんの襖絵を眺める住職)
大徳寺真珠庵 特別公開
- 住所:京都府京都市北区紫野大徳寺町52
- 拝観期間:2018年9月1日~12月16日 ※10月19日~21日は休止日
- 拝観時間:午前9時30分~午後4時(受付終了)
- 拝観料:大人1200円、中高生600円、小学生以下無料(保護者同伴) ※未就学児は書院「通僊院」と茶室「庭玉軒」の見学は不可
- アクセス:「京都駅」から地下鉄烏丸線に乗り、「北大路」で下車。「北大路バスターミナル」から市バス1・101・102・204・205・206系統で「大徳寺前」下車し、徒歩約7分。(所要時間:約35分)
- 「大徳寺真珠庵 特別公開」公式ホームページ
- 京都真珠庵クラウドファンディング