『赤坂桐畑』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第9回
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溜池の堀端を補強していた桐畑
軽くて吸湿性に富む桐の木は箪笥や下駄などの材料として重宝するが、幹を切っても、すぐに新しい芽が出てくるほど根が丈夫らしい。
江戸時代初期に、湧き水をせき止めて造られた人工湖である溜池には、へりを補強するためにたくさんの桐の木が植えられていた。そのため、この辺りは「赤坂桐畑」と呼ばれていたそうだ。
広重は、一本の桐の木を中央に配し、池越しに日吉山王大権現社(現在の日枝神社)が鎮座する高台を望み、桐の花が咲く梅雨時の東雲を描いている。
写真も同じく梅雨時期の未明に山王下交差点付近で撮影した。かつて飲み水にも利用されていた溜池は、神田上水や玉川上水の整備が進んだ江戸時代中期から次第に埋め立てられ、明治後期には完全に陸化したそうだ。今ではアスファルトの道路となり、1本の桐の木も植わっていない。
道路のカーブが絵の中の池と重なり、描かれた桐の木と枝ぶりが似ている街路樹を見つけたので、広重と同様の構図でカメラに収めた。まだ車の少ない早朝だったので、往時の静けさが感じられた。
かつては江戸城の外堀として利用され、飲み水の供給源でもあった「溜池」。すっかりと埋め立てられた後、1888年からは「溜池町」(現在の赤坂1丁目と2丁目の一部)という地名が残っていたが、1947年に「港区赤坂溜池町」へと変更になり、1966年に消滅した。現在は、外堀通りと六本木通りの交差点と都営バスの停留所で「溜池」の名が使われているが、東京メトロの駅「溜池山王」によって広く知られている。この駅は港区と千代田区の境界線にあり、千代田区側から見ると江戸城の鎮守・日枝神社の下にある「山王下」という付近になる。そのため、両方を合わせて「溜池山王」とした。駅付近はオフィスビルなどが立ち並び、近くには総理大臣官邸や内閣府がある。
浮世写真家 喜千也「名所江戸百景」――広重目線で眺めた東京の今
「名所江戸百景」は、ゴッホやモネなどに影響を与たことで知られる浮世絵師・歌川広重(うたがわ・ひろしげ)の傑作シリーズ。 安政3年(1856年)から5年にかけて、最晩年の広重が四季折々の江戸の風景を描いた。大胆な構図、高所からの見下ろしたような鳥瞰(ちょうかん)、鮮やかな色彩などを用いて生み出された独創的な絵は、世界的に高い評価を得ている。その名所の数々を、浮世絵と同じ場所、同じ季節、同じアングルで、現代の東京として切り取ろうと試みているのが、浮世写真家を名乗る喜千也氏。この連載では、彼のアート作品と古地図の知識、江戸雑学によって、東京と江戸の名所を巡って行く。
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