「切れ目のない、隙間のない、穴のない」安保法制を実現
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安保政策のキーワードは「積極的平和主義」
——安倍内閣の重要課題である安全保障法制の審議がいよいよ始まりますね。
岩屋 毅 日本を取り巻く安全保障環境は非常に悪化し、テロで日本人が犠牲になることも続いている。急激な変化に適切に対応するための国家安全保障戦略のキーワードは「積極的平和主義」。じっとしています、自分たちは悪いことをしません、というだけの平和主義ではなくて、国民の安全、世界の平和の維持・回復のために積極的に日本は貢献していく。
そのキーワードの下に、平時から有事に至るまで「切れ目のない」法制をつくり、全体の抑止力を向上させるのが狙いだ。「隙間のない」、「切れ目のない」、「穴のない」法制ができたと思う。ただし、「できるようになる」ことと、「すること」は全く別。どのような事態にも対応するための法制を整えることで抑止力を高め、有事が起きないように未然に防ぐことが目的であることを国民にしっかりこれから説明していきたい。
——自衛隊の海外派遣に慎重だった公明党との協議は十分でしたか?
岩屋 25回ぐらい協議し、その中で公明党は「3つの原則」を主張された。第1は、国際的な正当性がしっかり示せる活動であること。第2が国民の理解をしっかり得られること。言い換えると、シビリアンコントロールの貫徹で、国権の最高機関である国会の承認を経て初めて活動できるということ。第3は、自衛隊員の安全確保が最優先されなければならないこと。与党の安保協議の副座長は北側一雄副代表だが、これをもって「北側三原則」と言っている。極めて有益な提言をいただいたと思う。
国会での「事後承認」、万一の場合は容認
——公明党は「国民の理解」を得ることに非常に神経を使いましたね。
岩屋 非常にハードな活動も含まれるので、公明党は例外なく国会の事前承認が必要と強く主張した。自民党がこだわったのは、何が起こるか、どんな緊急性が求められるか分からないので、恒久法として法律を作るが、万一の場合は国会の「事後承認」の道も開いておくということだった。協議の結果、国会承認は基本計画の国会提出後、衆参両院とも「7日以内」に結論を出さなければいけないことになり、迅速性は担保された。
自衛隊の武器使用権限を拡大
——自衛隊の海外派遣では、どう隊員の身を守るか、難しい議論になりましたね。
岩屋 法制は特定の活動に限って自衛隊員の武器の使用権限を拡大している。国連平和維持活動(PKO)、あるいは国連が統括していないが関係国や地域機関が集まり平和回復のために行う「PKOに類似した活動」の場合で、今までできなかった任務遂行のための武器使用を認めることにしている。
分かりやすく言えば、自衛隊が輸送任務で活動しているときに、夜盗や山賊が武器で妨害したら、今までは引き返すしかなかった。しかし、これからは銃で威嚇する、警告射撃をするなどの方法で任務を遂行できるようにする。
もう一つは、邦人救出をできるようにしたこと。このときにも任務遂行のための武器使用の権限を拡大している。しかし、戦闘地域ではできない。当該国の同意と協力があくまでも前提となる。
指摘の多い在外邦人救出時の自衛隊の能力だが、特殊作戦部隊という組織もあり、能力的に足らないことはないと思う。ただ、十分なインテリジェンス(情報)があって初めてそうした作戦を遂行できるが、そうした能力が日本に十分に備わっているかというと、課題は沢山ある。
日米ガイドライン改定で、米軍支援を拡充へ
——日米防衛協力の指針(ガイドライン)も18年ぶりに改定されますね。
岩屋 改定までの時間があまりにも長過ぎたと思う。ガイドラインは与党協議の審議事項ではないが、安全保障法制と整合性を取ってやっている。最大の特徴は、集団的自衛権を限定的に行使できる事態である「存立危機事態」も入れて、平時から有事まで切れ目なく日米共同で調整をする仕組みができたことだ。
特筆すべきは、米軍の活動を今まで以上に支援できるようになったこと。同時に、米軍は作戦について日本側としっかり調整をしなければならない。つまり、米軍が好き勝手にやって、自衛隊が唯々諾々と手伝うということではない。活動の中身については十分に日本側とも相談する規定が入る。
分かりにくい「事態」の乱立?
——「存立危機状態」については、臨検、ミサイル防衛のための米艦擁護などさまざまな議論ありましたね。
岩屋 存立危機事態は、あくまでも自衛権の世界のこと。わが国が自衛権を発動するのは、自らが攻撃を受けた場合とこの「存立危機事態」だけに限定されている。
船舶検査活動でも強制力を伴わない活動は、今までは周辺事態安全確保法とリンクしていた。今回、活動できる範囲を世界規模に広げるが、法律では引き続き「任意の検査」しかできない。臨検のような、強制力を伴った船舶検査はできない形で改正をする。自衛権を発動する世界と、そうじゃない世界はきれいに切り分けている。
今回、新しく作る法律が1本、改正する法律10本を1つにまとめるので、計2本となる。「何とか事態」「何とか事態」といっぱい出て来るので、私は「事態乱立事態だ」と自嘲気味に言っている(笑)。これを丁寧に説明して、国民の皆さんが「分かった」、「心配することないんだな」と、思っていただけるようにしなくてはいけない。
中国の軍事費増大、「力による現状変更」を懸念
——安保法制化の過程で、中国の動向が影響しましたか。
岩屋 この10年間は急激な変化だと思う。実際に、中国は公開分の軍事費だけで日本の3倍、年率10%の伸びを示している。装備も近代化し、非常に強い海洋進出の意欲を持っている。日本の尖閣諸島周辺でも連日、接続水域に中国船が来て、2~3日に1回ぐらいは領海侵犯もする。空には航空機、海の底には潜水艦がいる状態が続いている。南シナ海では、フィリピン、ベトナム等と係争中のまさに「力による現状変更」だ。岩礁を一方的に埋め立てて、軍事基地を次々に造っている。
だからこそ、第2次安倍政権は安全保障体制全体の再構築のため、初めて国家安全保障会議(NSC)をつくり、「防衛計画の大綱」、「中期防衛力整備計画」も見直し、防衛費を1%程度だが増額した。武器輸出三原則も見直し、装備の国際共同開発に道を開いた。安全保障情報保全のため、特定秘密保護法も作った。今回の安全保障法制と日米ガイドラインの改定は、これら全般の総仕上げだ。
中国、韓国にも理解得られるように説明
岩屋 これらの作業を2年以上かけて一つ一つやってきた。目標、目的は、わが国が抑止力を維持した上で最大限の外交努力を行い、平和な安定した環境をつくっていくことだ。日米同盟の抑止力が強化、充実されたが、中身は非常に穏健なものになっていると思う。特定の国を目標にしているわけではないので、丁寧に説明し、中国、韓国もご理解いただけるように努力していく。最近の日中首脳会談でも、安保法制について習近平主席から何も発言はなかったようだ。日本の取り組みは常にオープンにしているので、ご理解をいただけるのではないかなと思う。
米軍普天間基地移設、沖縄と丁寧に協議
——しかし、日米同盟の重要な柱である沖縄の米軍基地移設問題はうまくいっていませんね。
岩屋 そうだ。地政学的にみれば、沖縄の軍事的なプレゼンスとしては、米軍と自衛隊を合わせたものが必要。従って、沖縄に航空隊を増やし、沿岸警備、海上警備の部隊を置く努力をしている。世界一危険な普天間基地は住宅街のど真ん中にあるので、ぜひ辺野古に移設させていただきたい。沖縄の皆さんにご理解をいただくために今後とも努力していく。
民主党政権によるダッチロールもあったが、かれらも辺野古への移設しかないと決めた。安倍首相と翁長沖縄県知事との対話も始まった。丁寧に協議を続けながら何とか実現をさせていただきたい。自民党内には、沖縄の声を丁寧に聞きなさいという強い意見があり、当然、そうすべきだと思う。
憲法「9条」、今は改正の必要ない
——最後に、安倍内閣の憲法改正に対するスタンスはどうなっているのですか。
岩屋 今回の政策変更をよく「解釈改憲」という言い方をされる人がいるけれども、それは適当でないと思っている。1972年の憲法解釈は、必要最小限の自衛権しか使えないという論理を残した上で、集団的自衛権は全部駄目としていた。しかし、今日の軍事技術の進展を考えると、集団的自衛権の中でも憲法の解釈で許されるものがあるのではないかということで解釈の変更を閣議決定し、それに基づいて安保法制が作られている。
私の考え方だが、憲法改正については、当面、「9条」はいじる必要はないのではないかと思う。今回の安保法制の整備で、憲法の枠の中でぎりぎりのことができるのではないかと思っている。
——船田元自民党憲法審議会会長代理は、憲法改正の「段階方式」を言われていますね。
岩屋 聞くところによると、安倍首相と船田会長代理との会談で、憲法改正を国民に提起するに当たって、テーマを絞り込むことになったそうだ。そこで、浮上しているのが、緊急事態条項。天変地異などで行政機能がマヒしそうになったとき、一時的に首相に非常事態の権能を与えて乗りきる規定。これはどこの国の憲法にもあるが、日本にはない。もう一つは財政規律。日本は大変な借金を抱え、財政再建しなければいけないが、憲法に、財政規律に関する規定がない。それに、「環境権」などがある。
これらは与野党が同じ土俵で議論できるテーマだ。もしコンセンサスができれば、国民に提起して、賛成していただける可能性も高いのではないか。既に国民投票法もできあがっている。早くいけば来年の秋、そうでなければ再来年の春ぐらいには、憲法改正を初めて国民の皆さんに提起できるときがやってくるかもしれない。
(2015年4月23日都内にてインタビュー)
(聞き手=一般財団法人ニッポンドットコム代表理事・原野 城治)