「黒色の魔術師」中国人女性銅版画家・庄漫さん
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「異色の作品」「中国人」「若い女性」に驚き
日本の版画界に新星のように現れた中国人の女性銅版画家がいる。上海市出身の元歯科医、庄漫さんで、東京・銀座のギャラリー「VIVANT」でこのほど個展を開き、話題を呼んでいる。
庄さんの版画は「メゾチント」と呼ばれる銅版画の一種で、作品のほとんどがビロードのような質感をもった黒一色。「漆黒から光を描く」と高い評価を受けている。庄さんがあえてモノクロを選択するのは「見る人に光と色彩を自由に想像してもらうため」だという。
日本の代表的な美術雑誌『月刊美術』と連携し、アート作品をネット販売している株式会社「サン・アート」の西村孝俊さんは庄さんの作品について「黒がしみ込んで、うまく表現されています。とても難しい技術です」と指摘。「最初に作品を目にした日本人は、新星のように現れた異色の作品に驚き、作者が中国人であることに驚き、それが若い女性だったことで、三重の驚きをもった」と語る。
歯科医を辞め、単身来日
庄さんが日本にやってきたのは2000年4月のこと。「(歯科医は)やりがいもあったが、親の決めた道を歩んでいるだけではないのかと疑問を抱くようになり、自分探しの冒険を求めて中国人の友人のいた日本にやってきた」という。その後、文化女子大学(現文化学園大学)生活造形学科を卒業し、銅版画家の道を歩み始めた。
個展会場には日本に来たばかりの頃の日本語学校教師、永野誠さんも来ており、庄さんについて「目立たない、おとなしい子だったが、作文はしっかりしており、物事をしっかりと捉える力がありました」と振り返る。
日本に来て嫌な思いをしたことはない
今回の個展に出品された『蒼海桑田』(そうかいそうでん)は急速に進む工業化の中で荒廃していく中国の海と漁村をテーマとしたもので、遠景には2つの火力発電所が描かれていた。中国が直面する環境破壊に警鐘をならす作品で、庄さんの故国への思いがにじみ出ていた。こうした庄さんの作品は日本ばかりでなく欧州でも高い評価を受け、数々の賞を獲得している。
そんな庄さんに日本と日本人の印象を聞くと、「私は日本にきて一度も嫌な思いをしたことがありません。皆、やさしく接してくれます」と語ってくれた。ただ、作品の評価は上がっても、版画は他の美術作品と異なり“一点もの”でないため、なかなか値段が上がらず、生活は厳しいと言うが、庄さんはかわいい笑顔を絶やさない。庄さんは現在独身。「芸術と結婚しちゃったんだね」と、永野さんは庄さんを見ながら微笑んだ。