沖縄の若者は今:世代間の意識の溝と対話への道

政治・外交 社会

仲村 清司 【Profile】

沖縄の若者にとって切実な関心事は、基地問題ではなく所得の低さなど自分たちが直面する厳しい現実だと筆者は指摘。県知事選での玉城デニー氏の勝利が、「一枚岩」ではなくなった沖縄の世代間対話の契機となることに期待を寄せる。

県民投票=世代間、島々の対話を喚起するか

これまでの究極の2択や極論は世代間の分断を深めるだけで、百害あって一利なしだ。自戒を込めていうなら、歴史の語り継ぎや共有に失敗した大人はいまこそ発想の転換に踏み切るべきである。若い世代が直面している貧困や格差の問題に大人が真摯(しんし)に向き会い、共同で改善することができれば、世代間の意識のずれはおのずと矯正できる方向に動くはずだ。

その意味で、辺野古の埋め立てについて賛否を問う県民投票は世代間の分断を埋めるきっかけになるかもしれない。

県民投票条例制定を求める署名は直接請求に必要な数の4倍以上の10万筆を超え、制定に向けて県議会が招集されることが決定した。この署名活動は20代の若者が中心になり、故翁長雄志知事を支える政党や経済人が協力した運動で、終盤には中高生にも関心を広げた。

「『辺野古』県民投票の会」代表の元山仁士郎氏(26歳)は、県民投票を契機にして「世代間の対話」「島々の対話」を促したいと語っている。

世代によって求めるものが異なっていることは繰り返し触れてきたが、一方で沖縄は島の数だけ「沖縄問題」が存在する。過疎や医療、物流など域内課題の差異がそのまま票数に表れているとみていい。今回の知事選における市町村別の得票数は、2014年の知事選とほぼ同じ構図になっている。玉城氏は那覇市や浦添市など有権者が集中する沖縄島中南部の都市部で支持を集めたものの、農村部の本島北部や離島、普天間基地のある宜野湾市では佐喜真氏にリードを許した。

元山氏が掲げた2つの「対話」は、これまでの世代が分かっていながらも向き合えなかった課題への画期的な取り組みなのだ。

未来への一筋の希望

玉城新知事は父が米軍基地に駐留していた米兵で母は伊江島出身。子どもの頃は「ハーフ」と言われていじめられた体験があり、母子家庭時代は極度の貧困も経験した。文字通り、戦後沖縄を象徴する人物でもある。

選挙戦ではギターを片手にロックを熱唱しながら各地を回った。「デニー」と駆け寄る子どもや女性たちにはじけるばかりの笑顔で応えるシーンが印象的だった。負の出自をはねのける明るさと若々しさ、親しみやすさが無党派層の7割を取り込んだ理由とされている。基地問題だけではなく「誰一人取り残さない政治」を訴える玉城氏を、キャンペーン中に支えた若者たちの働きも大きかった。

「デニーさんのところで頑張っていた若者の多くが県民投票のスタッフです」と元山氏は語っている。前述のように出口調査によれば10代~20代の支持が圧倒的だったわけではなく、積極的に動いた若者は全体のごく一部でしかない。しかし、若い世代が自ら掲げたテーマのもとに選挙に参加し、勝ち取ったこの成果は世代間の溝を埋める上で大きな可能性を与えてくれたように思える。おそらく県民投票にも大きな影響があるだろう。それぞれの世代や地域が葛藤している。まずは互いに胸襟を開いて語り合える場を設け、対話を重ねることから始めたい。

(2018年10月 記)

バナー写真:沖縄知事選挙で勝利し、踊る玉城デニー氏(手前右)=2018年9月30日、那覇市/時事

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仲村 清司NAKAMURA Kiyoshi経歴・執筆一覧を見る

作家・沖縄大学客員教授。1958年、大阪市生まれ。81年大谷大学文学部哲学科卒業。東京で書籍・雑誌の編集者を経て、96年に『沖縄が独立する日』(夏目書房)を出版、同年、那覇市に移住。2003年4月沖縄大学人文学部コミュニケーション学科・非常勤講師、14年4月より同大学客員教授。著書に『本音で語る沖縄史』(新潮文庫、2017年)、『消えゆく沖縄』(光文社新書、2016年)、『本音の沖縄問題』(講談社現代新書、2012年)、『島猫と歩く那覇スージぐゎー』(双葉社、2013年)、『ほんとうは怖い沖縄』(新潮文庫、2012年)など。

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