円高進み、アベノミクス相場が逆回転

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EU離脱を決めた英国民投票の結果は、場合によっては長期間にわたり世界経済に影響を及ぼす可能性がある。日本を代表するエコノミストの一人、上野泰也氏に今後の見通しについて聞いた。

上野 泰也 UENO Yasunari

みずほ証券金融市場調査部チーフマーケットエコノミスト。1963年生まれ。上智大学文学部史学科卒業。86年会計検査院入庁。88年富士銀行(現みずほ銀行)入行。為替ディーラーを経て、為替・資金・債券の各セクションでマーケットエコノミストを歴任。2000年みずほ証券設立に伴い現職。

EU残留に近い形での新たな協定に期待

——英国以外でも、「EU離脱」の動きが活発化する可能性が指摘されている。

イタリアが最も懸念される状況。「五つ星運動」(Five Star Movement)は極右ではない反EU政党だが、現在の支持率が30%を超え、レンツィ首相の民主党を上回っている。10月に憲法改正案を巡る国民投票が実施されるが、否決されれば首相は辞任すると表明している。「五つ星運動」が政権を取れば、イタリアでもEU離脱の是非を問う国民投票が実施されることになる。非常に危うい状況で、これが今後の先行きを占う大きな政治の節目となる。

インタビューに答える上野泰也氏

——今後の EUと英国の通商関係の着地点は、どのような姿になると見るか。

「労働力の移動」については、EUは英国に譲歩しないのではないか。労働力が移動していかないと、経済統合というものはメリットがなかなか出にくい。EU離脱派が政権を握っていれば、英国はEUとカナダが結んでいる自由貿易協定(FTA)のようなものを指向していくのかもしれない。しかしFTAは時間もかかるし妥協点を見出すのも難しいので、残留派主導の政権ならFTAを前面に掲げることはないと思う。

今後いずれかの時点で英国内の世論が「EUに残りたい」という方向に傾いてくれば、限りなくEU残留に近い形の協定が結ばれることになるのではないか。ノルウェー型とかスイス型とは違う、より妥協的な新しい形の協定だ。

離脱交渉は2年超える長期戦も

——今後英国で再度国民投票を行う可能性、いったんEUを離脱するにしても再加盟する可能性については。

再投票はメイ英内相(編集部注:13日に首相就任)やドイツのメルケル首相も否定しており、近い将来に起きることではない。ただ離脱表明後の2年間の交渉期間では英国とEUの協議は条件が折り合わず、3年、4年と続いた後に行き詰まると予想できる。次の英議会選挙が行われても、再び残留派から首相が選ばれるというシナリオは十分描ける。

スコットランドの動きもある。自治政府トップが、(連合王国からスコットランドが離脱する)再度の国民投票をしたいと表明しているが、実施されれば今度は独立派が勝つ可能性が高い。こうした状況では英国の分裂回避を理由に内閣が方針を変え、今回の国民投票の結果を無視してでもEU残留の方向を打ち出したり、EUに“わびを入れて”労働力の移動を受け入れる協定を結んだりする選択肢も考えられる。

現在、英国はまだEUのメンバーであり、今後の交渉過程でまだまだ紆余曲折はあるだろう。今回でEUと英国の『絆』がばっさりと切られ、双方が長期間苦しむということでは必ずしもないのではないかと予想している。

——離脱交渉は2年間。タイムリミットがあると思うが。

EU加盟国が一致できれば、交渉期限の延長も可能だ。自由貿易協定(FTA)のような形を模索するのなら5年から10年はかかるという声もあり、交渉期間は2年だと決めてかからない方がいい。

(2016年7月10日、都内でインタビュー)

聞き手=谷 定文(一般財団法人ニッポンドットコム常務理事)

バナー写真=ユーロとポンドの円相場を示す電光ボード=2016年6月28日、東京都中央区(時事)

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