「中東メディアからの緊急レポート」 安倍首相の歴訪成功に反発か

政治・外交

歴史的な総理の中東歴訪に、“慨嘆”の結末

日本人の一般市民2人に対する忌わしいテロ誘拐事件が発生した。2人はISIL(イラクとシャームのイスラム国)を名乗る集団メンバーの手によって捕われたものである。事件は、安倍晋三首相がエジプト、ヨルダン、イスラエルおよびパレスチナの中東4カ国を歴訪し、あらゆる面で成功を収めた歴訪の最終日に合わせるかのように発生した。

日本の寛大な支援を受け入れた訪問各国は、安倍首相の中東歴訪を建設的で期待をはるかに上回る結果という祝賀で締めくくるかわりに、誘拐事件で日本政府が2億ドルの身代金を支払わなければ72時間以内に人質を殺害するという脅迫を受け、悲嘆と懸念に暮れることになってしまった。

今回のテロ犯罪事件は、中東各国の喜びと歓喜に水を差し、アラブと日本の双方を今まさに起きている悲惨さのどん底に陥れたと言えよう。

アラブのことわざに言うように、事態は「喜びは成らず、カラスが奪って飛び去った!(鳶に油揚げを攫われる)」のである。

中東諸国に25億ドル支援

安倍首相の中東歴訪の成果は、日本・アラブ関係をモニターしている有識者や政治専門家の側から見れば、この上ない成功であると評された。中東地域の歴訪に対する反応は、今後、日本が中東諸国に対して人道支援、インフラ改善支援など軍事関連を除く諸分野において、総額25億ドル相当の十分な支援を約束したことから、最良の結果であると賞賛されている。

同時に、安倍首相は1月17日、カイロで行った中東政策スピーチにおいて、「地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度の支援」を約束し、2年前に日本が中東諸国に対して約束した約22億ドルの支援については、すでに全額を供与したと強調した。

また、首相は「中東地域の安定は、日本ばかりでなく、世界全体にとっても平和と繁栄の基礎となるものであり、もしテロや大量破壊兵器の蔓延を放置すれば、国際社会は深刻な被害をこうむることになるだろう」と述べた。

さらに、日本・エジプト首脳会談の直後に行われたシシ・エジプト大統領との共同記者会見で、安倍首相は、近年広まったテロと過激行為に歯止めをかけるよう呼びかけた。その後のイスラエル訪問時においても、「日本は国際社会と緊密に協力し、テロと戦っていく」と明確な言葉で、その強い姿勢を繰り返し述べた。

特に、邦人2人の誘拐事件について、首相は「人質として拘束されている日本人と見られる両名への脅迫を受けいれることはできない。我々は、両名の身体を何ら害することなく解放するよう求める」とテロ行為を強く非難した。

また、首相は中東諸国に対する2億ドルの支援の約束は、人道支援のためであることを明らかにし、これら人道支援は今後も継続していくことを確約した。

「テロには屈しない」

一方、菅義偉(すが・よしひで)内閣官房長官は、東京で行われた記者会見において「わが国の姿勢は、テロに屈することなく、テロとの戦いに貢献していくものであり、それは変わらない」と述べ、日本政府はテロには屈しないことを強調した。

日本政府筋の話として、中山泰秀外務副大臣をヨルダンへ派遣し、ISILによって発出された人質2人の殺害予告する脅迫動画について調査を行うと報じられた。外務省は、人質を拘束して脅迫することは受け入れ難く、政府は関係各国とともに、邦人の早期解放へ最大限の努力を尽くすと述べた。身代金の要求については発言を差し控えた。

過激派組織のニュースを掲載する複数のウェブサイト上で公開された動画には、黒い服を着用し、ナイフを持つ男の姿が映っている。地面に膝をついているオレンジ色の服を着たアジア系男性2人の間に立ったこのテロリストは、日本人に向けて次のようなメッセージを発した。「2人の命を助けるために2億ドルを支払うよう、政府にプレッシャーをかけるために日本国民に与えられる時間は72時間である。身代金を支払わない場合、このナイフはお前たちにとって悪夢となるだろう」。

また、安倍首相に向け、「イスラム国から8500キロ以上離れているにもかかわらず、この十字軍への参加を志願し、イスラム国の拡大を止めるため、我らの女子供を殺害し、家屋を破壊するために1億ドルを提供し、また更に1億ドルをムジャーヒディーンに対抗する者たちを訓練するために供与した」と非難した。

動画の人質は、それぞれ「ケンジ・ゴトウ・ジューゴ」および「ハルナ・ユカワ」であるとしたが、2人の居所については明らかにしなかった。

拘束されている日本人人質2人

後藤健二、ジャーナリスト。1996年に東京に映像通信社インデペンデント・プレスを設立。日本のテレビ局のため中東ほか世界各地を取材。

湯川遥菜、自称ジャーナリスト。民間警備会社勤務との情報がある。2014年8月、日本政府は、所属不明の武装勢力のもとにアジア系男性が写っている動画で、自称ジャーナリストのハルナ・ユカワを名乗る人物について、その真偽を確認中と発表した経緯がある。

なお、これまで外国人捕虜の処刑について動画で発表してきたISILが、日本人捕虜の存在について明らかにしたのは、今回が初めてである。

シリア人権監視組織が発表した数値によれば、ISILは、5ヶ月前にシリアおよびイラクの傘下に治めた地域に国家樹立を宣言して以来、シリアで約1500人を処刑したといわれている。

カバー写真=youtubeで流されたISILの脅迫画像(提供/時事)

(原文アラビア語)

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