広報文化外交を強化せよ

政治・外交

2011年12月筆者は、新たにフランス文化外交の中心機関となった「フランス院」が企画した初めてのシンポジウム(「文化外交」、パリで開催)にパネリストとして招待された。フランス文化省の機関「カルチャー・フランス」と外務省の対外広報・文化活動部門とが2011年初めに統合され、再出発したものが「フランス院」である。この新しい機関「フランス院」は産業・通商活動組織としての対応も可能な公共機関(EPIC)である。国家予算と同時に民間から資金供給も容易な機関としての地位を得られているのが特徴である。このシンポジウムには現代フランスの文化教育・外交活動の第一線の人々ばかりでなく、フレデリック・ミッテラン文化相、アラン・ジュペ外相らも演説に駆けつけた。文化大国フランスが改めてその文化外交を活性化させようとしている。

人的・予算不足の日本文化外交

これに対して日本では、昨今の議論をみるとまだまだ文化外交に対する意識は低い。日本外交を文化の力で活性化するというような発想にどうしてならないのであろうか。このところ独立行政法人改革の議論の中で、国際業務を行う四つの法人(国際協力機構[JICA]・国際交流基金・日本貿易振興協会[JETRO]・国際観光振興協会[JNTO])を統合する議論が出ていると聞く。ここで述べたフランスの例を待つまでもなく、広報・文化外交を体系的に戦略的に位置づけてそれぞれの役割分担と効率的な相互協力体制を目的として統合するということであれば理解できるが、単なる経費削減という意味からの「統合」の議論であるとすれば筆者は反対である。

問題は経費を削減する前にそれぞれに十分な活動が可能となるだけの体制が整えられているのか、という点にある。筆者自身は在仏日本大使館で広報文化公使として勤務した経験があるが、現場では予算を削減するどころか、文化活動を展開するのに十分な人的・予算上の資源のいずれも不足であった。組織統合を議論する前に、全体としてどのような活動部門が必要であり、どのような企画が望ましいことであるのか、そのあたりの戦略的配慮が不十分なままの議論であっては困る。縦割り行政の問題もあるが、それ以上にそれぞれの分野が貧弱であるから、つながらないというのが実情であるように思われる。

日本の広報文化外交の実情を考えるならば、より充実した専門官の養成と関係省庁のプラットフォームを形成するためのしっかりした運営母体の組織化の議論をまず進めるべきであろう。

定期的な国際文化事業に期待

そうした議論の突破口のひとつは、海外での周年行事の活性化ではないかと筆者は日頃から主張している。予算削減の機運が強いため外務本省もこの提案には乗り気ではないが、海外での周年行事はキャンペーンの仕方によってはそれほど資金のかからない企画である。2008年は日仏外交関係150周年記念の年であり、1年間でパリの日本大使館に登録された文化行事だけで758件を数えた。その大部分の企画は民間の資本によるものであり、部分的に政府がサポートしたものであった。

さらにこうした定期的なイベント開催を通して各省庁間の連携の試行錯誤が行われることにもなる。外交であるからには外交の現場での効果をまず念頭においた議論が必要であろう。周年事業、ビエンナーレやトリエンナーレのような定期的な国際文化事業の発展を期待する。

まず「経費削減ありき」では、日本の文化外交はさらに先細りするのではないか、という懸念の方が強くなる。世界第三位の経済大国に似つかわしくない目先にとらわれた貧弱な議論であるように思われる。世界をリードするグローバル・プレイヤー、規範や価値観・文化を評価してもらえる国として「平和」と「安定」、生活・思考慣習としての「慎ましやかさ」や「思いやり」などのポジティブなイメージを世界に伝える中で、日本の格を上げていくことができると考える。日本の文化産業の繁栄と地位の向上はそのことに大きく貢献すべきものであることは改めて言うまでもない。(2011年12月25日 記)

JICA