ムスリムの現実 in JAPAN〜「IS」が生んだ誤解の中で
(4)日本人はみんなオウムですか?
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ISとの人質救出交渉を模索
字羽井(アザウイ)マッムードさん(62)。イラクの首都バグダッド北方の街、ディヤラで生まれ育った。バグダッド大学で学んだ後、芝浦工業大学大学院でエンジンの技術を学んだ。その後、貿易や翻訳業の会社を起こし、いまは神奈川県で暮らしている。
字羽井さんは日本人が人質になった時、ISとの交渉を試みた民族派団体・一水会の木村三浩代表のガイド兼通訳として、アンマンに1週間滞在した。別の外国人人質解放の窓口役となっていた弁護士と接触し、ISに「人質を助けてほしい」と伝えた。しかし、願いはかなわなかった。
「ISに私たちのメッセージが届いているのかも分からないまま、時間だけが過ぎてしまった」。あの時、もっと何かできなかったかと今でも思う。
祖国に帰るたび、ISへの憎しみ募る
国際政治と紛争に翻弄(ほんろう)された人生だった。来日したのは、イラン・イラク戦争が始まった翌年の1981年。日本で安全な暮らしを知り、一度イラクに帰国したら二度と日本に来られないかもしれないと思うと祖国に帰る決心がつかなかった。サダム・フセイン大統領(当時)がクウェートに侵攻した90年、当時の恋人をヨルダンに呼び寄せ、逃げるようにして日本で結婚した。
ISの攻撃がシリア国境に近いイラク北部に移り、現在のバグダッドは平静を取り戻しつつある。きょうだいに会ったり貿易業の話をしたりするため、祖国に年2回ほど帰る。
祖国に帰るたび、日本で安全に暮らせて幸せだと思う。だからこそ、ムスリムへの誤解を増幅させるISが憎い。
「ISの考え方がムスリム全体の考え方だと思われたら困る。日本人だって、『みんなオウム(真理教)なの?』って言われたら困るでしょ?」
日本人の全てがオウム信者だなんて日本人はもちろん、日本を少しでも知る外国人から見てもとんちんかんな話だ。だが、それを分かっている字羽井さんがそんな言葉を口にした。ムスリムがISに抱く怒りの大きさに思い至ったとき、返す言葉が出てこなかった。
文=河野 正一郎(POWER NEWS)写真=今村 拓馬